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2018.07.25 (水) 印刷する

御嶽海初Vで浮き彫りになった大相撲の不安 佐野慎輔(産経新聞特別記者)

 大相撲名古屋場所は関脇御嶽海が初優勝を飾り、一人気を吐いたが、肝心の3横綱がすべて休場し、話題の新大関、栃ノ心までが右足を負傷し途中休場した。
 25歳、新星御嶽海の台頭に、新聞、テレビが〝救世主〟のように騒ぐのも無理はない。きたる9月の秋場所で11勝すれば、大関昇進の目安となる直近3場所33勝に届く。気の早い向きは、「次は大関」、そして「横綱」と、御嶽海フィーバーをあおり始めている。
 しかし、この御嶽海人気をあおる動きにこそ、実は大相撲の課題が凝縮されている。
 秋場所は、長期の休場が続いている日本人横綱、稀勢の里が、昇進10場所で進退をかけた土俵となる。これ以上、横綱の重責を果たせないようでは土俵を去るしか道はないだろう。
 だからこそ、日本相撲協会としても稀勢の里に替わる新しい〝柱〟が欲しい。それは外国出身力士ではない。横綱白鵬がいくら勝とうが埋められない、日本人の精神性といってもよいものだ。期待された豪栄道や高安は大関昇進後、必ずしも成績が奮わない。伸び盛りの御嶽海に期待が集まる理由だ。

 ●「美しく、気高く勝つ」相撲へ
 一方、幕内最高優勝40回、幕内通算986勝、生涯通算1080勝、横綱在位66場所など数々の大記録に彩られた白鵬も、今年に入って満足に出場したのは5月の夏場所のみ。それも11勝4敗で、後輩力士の引き立て役にまわった。33歳、ケガの治りは遅くなり、引退も視野に入ってきている。
 外国出身力士が増える中で大相撲という伝統をいかに維持していくか。課題として指摘されて久しい。「勝てばよい。強ければよい」ことがもてはやされ、「美しく、気高く勝つ」大相撲本来の精神性が後景に追いやられつつあるのではないか。協会をあげて「大相撲とは何か」を問い直す時期にきているように思う。
 昨年の九州場所中に発覚したモンゴル力士による貴ノ岩殴打事件は横綱曰馬冨士の引退を呼び、貴乃花親方の日本相撲協会への〝造反劇〟を引き起こした。その最中、立行司・式守伊之助のセクシャルハラスメントが発覚。貴乃花部屋の力士による後輩への殴打事件もあった。

 ●救いは衰えぬファンの支え
 だが、不思議なことに、そうした相次ぐ不祥事にもかかわらず、大相撲人気は落ちていない。むしろ、名古屋場所中は連日満員御礼が続き、若い女性ファンや外国人観光客の姿が増えている。協会のファン獲得への努力もあるが、地位にかかわらず、贔屓の力士を探す新しいファン層の出現が大相撲人気を押し上げている。
 とはいえ、相撲界はそれに甘んじていてはならない。不安な要素は決して少なくないからだ。秋場所の結果次第では、相撲界に地殻変動が起きかねない。
 何しろ、上位陣は不安定だ。果たして3横綱は15日間の土俵を務め切れるのか。大関陣も地位に見合った成績を残せるのか。遅咲きの栃ノ心は、大関2場所目の秋場所で早くもカド番を迎えるが、負傷した右足が気にかかる。
 だからといって、御嶽海にすべてを背負わせてはならない。相撲界全体で考え、乗り切っていくべき宿題が山積している。