公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.07.23 (月) 印刷する

海の底で専守防衛は機能せず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 「宇宙・サイバー空間の戦いが同時並行する現代戦において、日本が国是とする専守防衛は機能し得ない」。平成29年版の防衛白書を取り上げた2017年8月14日付の「直言」欄でそう書いた。宇宙空間、サイバー空間とも防御には限界があり、「やられたらやり返す」攻撃能力を保持することで、敵の攻撃を抑止する態勢を整えておかなければならないという意味である。今回は、海底の安全保障に関しても全く同様であることを述べたい。

 ●光ケーブル網維持は死活問題
 現在我々が使用しているインターネットは、外国と交信する際、殆どが海底の光ファイバーケーブルを経由している。このケーブルを切断されると、ネットは機能不全に陥ることになるが、広大な海底に張り巡らされたケーブルを防御することはほぼ不可能である。
 他方、海底のケーブルを切断するためには深海まで潜れる潜航艇や無人潜水艇(UUV)と操縦する人工知能(AI)が必要となる。
 日本には、独立行政法人海洋研究開発機構が保有する有人潜水調査船「しんかい6500 」があり、6500メートルまで潜れる。だが、中国は人民解放軍海軍(中国海軍)が運用している「蛟竜」が2012年に水深7020メートルの潜航に成功し、世界一となった。
7000メートル潜れるということは世界の海洋の99.8%をカバーできるということだ。7月20日の中国共産党機関紙『人民日報』によれば、中国海軍は2021年までに水深6000メートルまで作戦行動が可能な潜水救難艦も建造中という。

 ●日本は軍民協力になお抵抗感
 2016年12月には、フィリピン沖の南シナ海で、調査を終えて米海軍が回収しようとしたUUVが、急接近してきた中国海軍によって奪われる前代未聞の事件が発生している。現場は公海上であり米国側は激しく抗議。その後、中国が返却に応じたため事態は収拾に向かったが、米中の鍔迫り合いは深海をめぐっても激しさを増している。
 嘗て筆者は、防衛大学校の国際教育研究官として、各国士官学校との国際交流を行っていた。フランスの海軍士官学校と一学期の交換が成立した2010年4月末、先方から「防大と同じ横須賀にある海洋研究開発機構で研修したい」との申し出があった。この頃から主要国が海底の安全保障に注目し始めているのである。
 文部科学省が所管する同機構と調整したものの、結局は「軍への協力はお断りしたい」との回答であった。民間の学術目的の研究で自衛隊に協力することなど考えられないということらしい。こんな状態では、仮に中国海軍に日本周辺の海底ケーブルを切断されたとしても、なすがままにするほかなくなる。
 再度強調したいが、宇宙・サイバー・海底の領域で専守防衛は機能しない。1970年に当時の中曽根防衛庁長官が提唱した本構想は、現代では完全に破綻しているのである。