公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.08.13 (月) 印刷する

私学法の再改正でガバナンスの向上を 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 日本大学アメリカンフットボール部の「反則タックル」事件、東京医科大学の補助金をめぐる受託収賄事件など私立大学のガバナンスが問われる事件が相次いでいる。
 これまでも私学の不祥事を契機に、それらを抑制すべく私立学校法の改正が行われてきた。公共性、公益性の高い組織である私立大学は、学校法人(経営)としての私立学校法(私学法)と高等教育機関(教学)としての学校教育法の法的枠組みで運営されている。しかし近年、少子化等による経営環境の厳しさを背景に学校教育法が改正されたのに対し、私学法はそのままで、経営と教学は著しくパワーバランスを欠いている。ガバナンス低下の原因と言わざるを得ない。

 ●問題残した平成16年の改正
 昭和24年に制定された私学法は、私立学校の公共性を一層高め、学校法人の管理運営制度の改善を目的に平成16年、大幅に改正された。その直接的な契機は、13年から14年にかけて相次いだ不正入試事件など私立大学の不祥事にあった。中には、中国人留学生の多くが就労目的で首都圏に住んでいた酒田短大留学生事件のようなケースもあった。当時は、理事会や監事制度すら法律で定められておらず、創立者の専断的経営も見られた。
 このため平成16年の改正では、管理運営を強化するため、理事会制度・監事制度・評議員会制度の機能明確化と財務情報等の公開による経営の透明化がはかられた。
 具体的には、理事会が法定化され、理事長の代表権が明記されたが、この問題について、衆参両院の附帯決議でも「理事長及び理事の権限の明確化に当たっては、私学の教学面における自律性の確保を図る」と明記し、政府は、「理事会に対し、特別の権限を与えるようなことはない」(2004.4.7衆議院政府答弁)と言明した。しかし、この改正を理事長の権限強化と誤った受け止め方をした大学関係者も少なくない。結果的に内部の統制機能が働かなくなったことは否めない。
 東京大学の両角亜希子准教授(教育学)は、オーナー理事長の有無、教授会自治の強弱、職員理事の存在の有無とガバナンスの関係について検証したところ、パワーバランスが拮抗している大学ほど学生の定員充足状況がよく、一部に権力が集中している大学では悪化する傾向にあったと指摘している。トップのリーダーシップは重要だが、過度の権限集中は不祥事がいつ起こるかわからない危険な状況を招きかねないというのである(日経新聞2018年7月30日付)。

 ●教学と経営のバランス回復を
 現行の私立学校法は、評議員会の設置に加え、理事会メンバーは5人以上、監事は2人以上と定めているほか、役員は配偶者や3親等以内の親族が1人を超えてはならないことや、情報公開の推進など同族経営の専断を防ぐ制度整備も設けられている。
 しかし、現行法では、理事全員を理事長が任命することも可能だ。寄附行為や役員名簿、役員報酬基準等の公開についても、私立大学の自主判断に任されている。したがって、理事はどのような人で、どのように選出されたか、その役割も不明な場合が多い。
 さらに、平成26年の学校教育法改正にあたっては、「学長のリーダーシップの下で、戦略的に大学を運営できるガバナンス体制を構築することが重要」とされ、私立学校法で最終的な意思決定機関とされる理事会の権限が強化された。そこでは、教授会は改革の「抵抗勢力」との認識から学長の諮問機関に留め置かれ、学長から諮問がない限り教授会での議論は不要とした。
 背景には、教授会の経営への関与を問題とする認識があるが、同時に経営の教学への過度の関与は、不祥事を生む一因であることも否定できない。教育機関として本来あるべき改革には、健全な教学と経営のバランスの回復が求められる。