公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.09.19 (水) 印刷する

「リーマン」の教訓は生きているのか 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 米投資銀行大手リーマン・ブラザーズが破綻し、世界の金融市場が大混乱に陥った「リーマン・ショック」から9月15日で丁度10年が経過した。
 「バブルは崩壊して、初めてバブルと分かる」と語ったのは、政策運営のマエストロ(巨匠)と称されたグリーンスパン前米連邦準備理事会(FRB)議長だが、足下の世界経済はリーマン・ショック直前をもしのぐ資産(株+債券)バブルの様相を呈している。「百年に一度」と言われたあの危機の教訓は生きているのか。

 ●債務は史上最悪の状態続く
 リーマン・ショック後、経済の急速な落ち込みに対応するため、米国、欧州連合(EU)、日本などの中央銀行は大規模な量的金融緩和を実施し、市場に大量のマネーを供給し続けてきた。これによって世界経済は緩やかに回復基調に向かったが、家計・企業・政府は債務を拡大してきた。
 国際通貨基金(IMF)によれば、世界の債務残高は10年前の既往ピーク水準を上回っており、史上最悪の水準に達している。そのおよそ半分を日本、米国、中国の3か国で占めている。中国については、2001年に1.7兆円だった債務が2016年には25.5兆円にまで急増した。
 国際金融協会(IIF)が7月9日現在で明らかにした調べによると、世界の政府・家計・企業の2018年1~3月期の残高は前年同期比で11.1%増え、過去最悪の247兆2000億ドル(約2京7700兆円、1ドル=112円で換算)になった。国内総生産(GDP)に対する債務の比率は318%に達している。内訳は家計、非金融機関や一般政府部門の債務が186兆ドルで、金融機関が過去最高の61兆ドルだった。

 ●民間債務増の大半は中国
 IMFの「財政モニター(2018年4月)」によれば、先進国の3分の1以上の国々の公的債務はGDPの85%以上となっている。これは国数で2000年の3倍以上だ。低所得水準の発展途上国では、2012年にはほぼゼロであった債務が、約2割で対GDP比70%以上となっている。憂慮すべき状況であることは歴然である。
 IIFによると世界の政府部門が抱える負債は2017年9月末時点で63兆ドルと、この10年で倍増した。政府部門の負債は金融機関を上回る。世界全体のGDPに対する政府債務の比率は、金融危機前の6割から9割に上昇した。
 リーマン・ショック以降の民間債務増大は、そのほぼ4分の3を中国が占めているという。また、IMFによれば、米政府の対GDP債務比率は今後5年以内に、先進7カ国(G7)中日本についで2位となり、GDPでカナダとともに最も低いイタリアよりも悪くなると予測した。

 ●財政健全化で危機再来に備えよ
 IMFの指摘するところでは、政府が多額の債務と大きな財政赤字を抱えると、景気後退時に財政政策で有効な対策を打ち出しにくくなる。つまり、金融危機後の不況はさらに深刻なものとなり、長期化することが分かっている。
 民間部門の債務が史上最悪の水準にあり、拡大を続けている現状では、金融危機のリスクに備え、財政に余力を持たせることは不可欠である。
 日本の場合、民間部門の債務は減少傾向にあるが、巨額の政府債務と財政赤字を抱える中で財政を拡大することには問題がある。危機への対応力に大きな不安がある。
 金融緩和については、2015年に米国が終了させたのに続き、欧州連合(EU)も本年中に終了するとしている。ところが、日本だけは依然、緩和政策を継続しており、「出口戦略」について日銀からは公式の言及がない。
 日本がなすべきは、財政再建に専念することだ。戦後最長とも言われる景気拡大期にある今、財政再建に正面から取り組む必要がある。財政の余力を高め、景気後退時にそなえておくことだ。金融環境が引き締めへと変化した場合、資金調達は一転して困難になる。そのリスクを下げるためにも経済基盤を強化しておく必要がある。