公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.09.19 (水) 印刷する

南シナ海対潜戦訓練が意味するもの 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 防衛省は17日、海上自衛隊の水上艦艇「かが」「いなづま」「すずつき」が、潜水艦「くろしお」と南シナ海で対潜水艦訓練を行ったと発表した。潜水艦の南シナ海での訓練が公表されたのは初めてである。一口に対潜戦と言っても2通りの潜水艦がある。弾道ミサイルを搭載した戦略潜水艦(SSBN)と攻撃型潜水艦(SSN、SS)である。今回は、後者を目的としたものであろうが、前者も対米関係向上の観点から必要である。

 ●米空母打撃群とも連携すべき
 9月3日の「直言」で筆者は、今年の防衛白書について以下のように指摘した。
 「中国が開発中の原子力潜水艦搭載弾道ミサイルJL3についての記述が初めて登場した。従来の射程約8000km のJL2が南シナ海から米本土を射程に収められなかったのに対し、JL3は米本土を射程に収めることができる。中国が南シナ海に人工島群を建設してきた狙いの一つはJL3搭載原潜の聖域を作り出すことにあると思われ、米識者の多くもこの点を指摘している。しかし、白書は中国の海洋進出の目的五つの中に、なぜかそれを書いていない」
 海上自衛隊の今回の狙いは、SSN、SSと推察される。南シナ海を重要な海上交通路としている日本にとって当然必要であるが、米国としては、冷戦時代にオホーツク海の旧ソ連SSBNを海上自衛隊の対潜哨戒機(P3C等)が追尾してきた実績を高く評価しており、中国に関してもそれを期待しているに違いない。
 同様に今回、同海域には「ロナルド・レーガン」率いる米空母打撃群がいた。これが南シナ海で作戦行動を行えば、当然中国海軍の潜水艦は、空母打撃群に対する攻撃行動をとるに違いない。今回の訓練公表は、その場合の対潜戦を海上自衛隊が行う意思を示したことになる。

 ●無用な中国への過剰配慮
 天安門事件後もそうであったが、今回の米中貿易戦争のように対米関係が厳しくなってくると中国は、対日関係を良好にしようと秋波を送ってくる。こうした時こそ、これまで対中配慮の観点から控えてきた事を実行する好機である。具体的には総理の靖国参拝や、尖閣諸島に灯台や駐在所を作るような対中外交攻勢に出ることだ。
 ちなみに中国の海軍関係月刊誌「艦船知識」9月号には、今回南シナ海で訓練を行った「かが」の「いずも」型ヘリコプター搭載護衛艦に垂直離着陸機F-35Bが搭載されているイラストが掲載されていた。日本は「専守防衛」の呪縛にとらわれて、来年度の概算要求からF-35B搭載のための改修を見送ったが、中国は、既に日本が垂直離着陸機をヘリコプター搭載護衛艦に搭載することは織込み済みの事実と認識しているのである。また中国は、今回合同訓練相手のロシア海軍艦艇に対してスパイ活動を行うドンディアオ級情報収集艦を派遣するような厚かましい国である。何を遠慮しているのであろうか。