ロシア軍は9月11日、冷戦後最大規模となる軍事演習「ボストーク(東方)2018」を極東やシベリアなどで開始した。17日までの日程で総勢30万人の兵士を動員し、中国の人民解放軍との合同演習も行う。
中国は北方戦区から兵力3200人、1000を越える武器、30機の航空機で参加している。中露は過去にも合同演習を行っているが、今回ほど大きな規模ではなかった。
これまでの中露合同演習を見る限り、互いに偵察や、接近・周回といった威嚇を行っており、とても戦略的パートナーとは思えない。ロシア軍にとってみれば、近年拡張著しい中国軍の実態を探りたい思惑があり、人民解放軍にとってみれば、未だ軍事技術や戦術面で先行するロシア軍から情報を得たいというのがその狙いであろう。
●現実は今も不仲続く
中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは11日、「中国軍がロシアの巨大演習に参加」と伝えたほか、「中露関係は新しい時代の先導役」とする特集ページも組んでいる。
他方で習近平首席は予て「失地回復」を謳っている。中国(当時の清)に対してロシアは15世紀以降、ネルチンスク条約(1689年)、キャフタ条約(1727年)、アイグン条約(1858年)、北京条約(1860年)、イリ条約(1881年)と領土を奪っており、中国が失った国土の大半は現在のロシア領である。
ロシアにとってみれば、人口が少ないシベリア地方に多くの中国人移民が入ってきて資源を持っていく、あるいは自国の裏庭である北極海に原子力砕氷船を進出させる中国を快く思ってないことは明らかである。
今回のボストーク演習は、東モンゴル北方のトランスバイカル地域のツゴル訓練場で行われ、モンゴル軍も参加している。筆者が数年前モンゴルを訪問した際、当時の駐モンゴル日本大使は「中露間は、実際には非常に仲が悪い」と私に語っていたことが印象的であった。
●中露にしたたかに楔を
『孫子の兵法』九地篇第十一には「夫れ呉人と越人との相い悪むや、其の舟を同じくして済りて風に遇うに当たりては、其の相い救うや左右の手の如し」(呉越同舟)とある。中国は現在アメリカからの貿易戦争という「風に遇」っていると言うよりは、寧ろその危機を機会として利用し、対露接近を図っているように見える。一方のロシア(旧ソ連)は、嘗て価値観を異にする英米と共に日独と戦った歴史を持つが、現在のロシアはエネルギーの輸出先、対露投資相手として、日中のバランスを取る狙いが窺える。日本もしたたかに中露の潜在的不仲に楔を打って行けば良い。それが安倍総理の対露外交の狙いのひとつではなかろうか。