公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.09 (火) 印刷する

日米で「一帯一路」に代わる新基金創設を 冨山泰(国際問題研究者)

 中国の勢力圏拡大構想「一帯一路」に代わる日米主導のインド太平洋戦略に資金的裏付けを与える新たな動きがワシントン発で相次いだ。
 一つは、開発途上国のインフラ整備に投資する米国企業に資金を貸し付ける政府系金融機関を新設する法律(BUILD ACT)が上下両院で超党派の支持により圧倒的多数で可決され、10月5日、トランプ大統領の署名を経て成立したことだ。
 もう一つはリチャード・アーミテージ元国務副長官、ジョゼフ・ナイ元国防次官補ら超党派の知日派研究集団が10月3日の報告で、日米両国を主体とするインド太平洋地域の「インフラ基金」の創設を提唱したことだ。日米のほか、オーストラリア、韓国、インド、ニュージーランドなども同基金の構成国に含めるべきだとしている。

 ●「債務のわな」外交に対抗
 BUILD ACTの下で、関係金融機関の統合によって新設された「米国際開発金融公社」の融資枠は600億ドルで、従来の2倍に拡大される。
 新しい融資枠は、一帯一路の資金源の1つとして中国によってつくられた「シルクロード基金」の資金規模550億ドル(400億ドルと1000億元=約150億ドル)に匹敵し、米国が中国の影響力拡大阻止に資金面で本腰を入れ始めたことが分かる。
 ペンス副大統領も10月4日の演説でBUILD ACTに触れ、中国の「債務のわな」外交(一帯一路の一環として開発途上国を借金漬けにし、戦略的インフラを奪うやり方)に取って代わるものを途上国に提供する決意が米国にあると明言した。

 ●インド太平洋戦略を後押し
 一方、新基金の創設などを提唱したアーミテージ氏や、研究集団の有力メンバーであるマイケル・グリーン氏(元国家安全保障会議=NSC=上級アジア部長)らは共和党のアジア外交・安全保障専門家集団の本流に属し、トランプ大統領とは反りが合わず、現政権への影響力は限られている。
 ただ、国防総省でアジア問題を取り仕切るランディ・シュライバー国防次官補がアーミテージ氏の弟子筋に当たるなど、アーミテージ人脈は政権内外に広がっている。4回目となる「アーミテージ=ナイ報告」の提言を軽視するのは恐らく適当でない。
 安倍晋三首相の「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、中国の勢力圏拡大に歯止めをかけるとともに、「内向き」の米国をアジアに引き続き関与させることを狙っている。しかし、資金面では、アジア開発銀行(ADB)や日本の政府系金融機関である国際協力銀行(JBIC)など既存の枠組みの利用に頼っているのが実情だ。中国が一帯一路の実現に向けてアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金をスタートさせたのに比べると、パンチ力で見劣りする感は否めない。
 一帯一路に伴う債務のわなに対して地域諸国の反発は強まっている。日米主導で代替手段を提示するため、日本がアーミテージ・ナイ報告のインフラ基金構想に乗るのも一つの手ではないか。