尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、今年に入り、中国が新たに海上ブイを設置していたことが2日、分かった。同日付の産経新聞が報じた。
尖閣周辺のEEZ内で中国のブイが確認されたのは2016年8月以来。他国のEEZで断りもなく海洋調査を行うのは国連海洋法条約に違反している。気象観測のほか、軍事目的で海中のデータを収集している可能性がある。この中国の狙いについて軍事的に考察してみたい。
●潜水艦特定に不可欠な音紋収集
人間の指紋が1人1人異なるように、潜水艦には1隻1隻、航行時に発する音が異なる。漢級、商級など同型の潜水艦は、一般的にスクリューを回すメイン・エンジンが同じであるから同じ音紋になると思われるかもしれないが、真水ポンプや潤滑油ポンプまで同一にすることは難しいので、一隻一隻、音紋が異なるのである。そうした音紋をサンプルとして保持することで、音によって艦番号までが識別できるようになる。
今回ブイが確認されたのは尖閣諸島の西端で、台湾にも近い。昨年、米シンクタンク「Project 2049」が「2020年までに中国は台湾に侵攻する」という内容の出版物を公表し衝撃を与えたが、中国が台湾に侵攻するには政権機能が集中する台湾北部に海兵隊を搭載した上陸用艦艇が集結する可能性が高い。それを阻止するため、米国は原子力潜水艦を派遣するはずだが、その海域が今回のブイ設置位置でもある。
●台湾有事の死活的戦略ポイント
1996年、李登輝氏が台湾総統に選出された選挙に圧力をかけるため、中国は台湾の周辺海域に弾道ミサイルを多数打ち込んだ。
これに対して米国は、空母のインディペンデンスとニミッツが横須賀と南方海上からそれぞれ台湾の北と南の洋上に展開し、危機は収束したが、今後は同じような事態が生起した場合、米空母を撃沈しようと中国の潜水艦がつきまとうことになるだろう。
攻撃に参加した中国の潜水艦が損傷した場合、修理には母港である青島に向かうことになるであろうが、その最短ルート上にあるのが尖閣諸島だ。そうした手負いの中国潜水艦を狙う米潜水艦が遊弋するのも、この海域である。
中国にとって尖閣諸島は海底の埋蔵エネルギー資源だけではなく戦略的にも重要な海域である。そこに潜水艦の音紋を収集するためにブイを設置するのは、尖閣を自国領だと強弁する中国にしてみれば、ある意味当然かもしれない。
中国にとってみれば、尖閣諸島を実効支配できれば台湾侵攻が容易になる。逆に日本の領土であることを認めてしまえば、中国の潜水艦は国際法上、尖閣周辺海域を突っ切る際には浮上航行しなければならないのである。