公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.22 (月) 印刷する

米のINF全廃条約撤退表明を歓迎する 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 10月20日、米トランプ大統領が中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明した。これに対してNHKの報道は、「残念、頭にくる」と言う広島・長崎市民や非核団体の声だけを報道した。しかし、INF全廃条約に縛られない北朝鮮や中国の中距離核戦略に晒されている日本にとって、懲罰的抑止力が向上するので好ましい。米国による今回のINF全廃条約からの離脱表明は中朝に対するメッセージでもある。

 ●条約外で野放し状態の中朝
 INF全廃条約とは冷戦中の1987年に米国と当時のソ連との間で締結された射程500~5500kmの地上発射型ミサイルを全廃する条約である。米国防総省が本年2月に公表した報告書『核態勢の見直し(NPR)』では、ソ連から引き継いだロシアが本条約を遵守していないことと、中国や北朝鮮が条約に拘束されていないことを良いことに、INFを野放し状態で開発・配備していることについて警鐘を鳴らしていた。
 INF全廃条約は、陸上配備の中距離ミサイル搭載核だけを規制しており、海上配備の中距離核に関しては規制していない。米海軍は、かつてトマホーク巡航ミサイルに核を搭載していたが、2010年にオバマ大統領はそれをも撤去してしまった。
 今回のトランプ大統領の離脱表明とタイミングを合わせるかのように、米海軍は核弾頭搭載のトマホークを艦隊に復帰すべきだとする記事が今月の米海軍協会の機関誌プロシーディングスに掲載されている。

 ●直視すべき核バランスの現実
 日本は「非核3原則」政策により、ロシア、中国、北朝鮮の核に対しては米国の拡大抑止に頼らざるを得ない。オバマ政権時代に核弾頭搭載トマホークが艦隊から撤去された後の日本への拡大核抑止力は、グアム島に配備されている戦略爆撃機搭載か、米本土の大陸間弾道弾(ICBM)、あるいは戦略弾道ミサイル搭載原子力潜水艦と、全て戦略核に頼ってきた。
 これに今後、陸上配備の核弾頭搭載中距離ミサイルや艦隊に配備されるトマホークといった戦術核が加われば、拡大核抑止力の柔軟性は格段に増すことになる。米国の拡大核抑止力に頼っている日本にとって、今回のトランプ大統領の決断は歓迎すべきではないのか。感情的な核アレルギーではなく、現実的な周辺諸国との核バランスの観点から事態を直視する必要がある。