アメリカ政治に関するNHKのニュースは、民主党支持の米主流メディアの報道を受け売りしたものが大半である。これに依ってアメリカ認識を形成すると確実に事態を見誤ることになる。
いつも強調することだが、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、3大テレビネットワーク、CNNなどの主流メディアに加え、共和党主流派に近いウォールストリート・ジャーナル、共和党保守派に近いFOXニュース、草の根保守に強い影響力を持つトークラジオなども適宜チェックしなければ、バランスの取れた認識は持てない。アメリカ研究やアメリカ報道を生業とする者の場合、それは義務だろう。
●ナレーションで「悪」演出
もっともNHKも受け売りばかりしているわけではない。時にはかなりの費用と時間を使って現地取材を行い、独自のドキュメンタリー番組にまとめてもいる。ところがこれが、米主流メディアの受け売りの場合以上に偏向した作りであることが多い。
最近録画で見たNHKのBS1スペシャル「アリゾナ 不法移民ハイウェイ~荒野の攻防戦~」もその1例だった。最初の放映日は2018年7月15日(日)である。制作側の番組紹介から引いておこう。
《アリゾナ州南部、メキシコ国境から北に広がる荒野は“不法移民ハイウェイ”と呼ばれている。ここを年間30万人の不法移民が通過するのだ。不法移民に厳しい姿勢をとるトランプ大統領就任以来、この荒野を舞台に不法移民を巡る争いが激化した。大型銃を手に不法移民の取締りに乗り出す民兵。一方、渇きで死の危険に直面する不法移民に飲料水を提供する人々もいる。不法移民の排除か保護か。移民問題に揺れるアメリカをみつめる。》
映像自体は参考になる部分が多い。決して時間の無駄にはならない。しかしナレーションの偏向がいかにもひどい。不法移民を入れない努力を一貫して「悪」と捉える姿勢なのである。
●字幕の訳でも印象操作
警戒監視に当たるボランティアが不法移民の進入経路について冷静に語る場面でも、発言中のtheyをわざわざ「あいつらは」と字幕に訳す。その上で「トランプ大統領が移民への憎しみを増幅させている」などと単純な解説を入れる。
合法移民と不法移民は全く異なる。しかもここでの取り締まり対象は、不法であれ既にアメリカに定住した人々ではなく、あくまで新規の不法越境者である。取り締まり手法に関して議論はあっても、不法越境の阻止自体を悪とする発想は米政界にない。
NHKは日本の視聴者に対し、不法移民を取り締まってはならないというメッセージを発したいのだろうか。