公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.10.23 (火) 印刷する

やはり軽減税率は廃止すべきだ 大岩雄次郎(東京国際大学教授)

 安倍晋三首相は10月15日の臨時閣議で、消費税率を予定通り来年10月1日に現行の8%から10%へ引き上げる方針を表明した。
 10%への引き上げ時には、低所得者対策として、食料品などに軽減税率が導入されることになっているが、この議論に関心が集中しすぎる余り、消費税増税の本来の意義を矮小化させてはならない。

 ●「低所得者に優しい」のウソ
 軽減税率は、酒類と外食を除く飲食料品や新聞の定期購読料を対象導入され、税率を8%に据え置く。税率引上げに伴う低所得者への配慮として、「平成28年度税制改正の大綱(27年12月24日、閣議決定)」で導入が決まった。
 この制度の導入にあたっては、政策効果についての議論が十分なされたとは到底言えない。導入の背後には政治公約を盾にした公明党の強力な押しがあり、選挙協力を重視した安倍首相が是認したというのが実態であろう。
 軽減税率制度については、次のような問題点が指摘されている。
①実際は高所得者ほど多くの恩恵が及ぶため、喧伝されているような低所得者対策にはならない。
②軽減税率導入に伴う減収分の確保が必要で、所得税控除の見直しや高所得年金受給者の増税等が行われる見通し。
③実際の運用に当たり、対象の線引きで混乱が生じることが予想される。今回は、食料品以外では対象を新聞に限ったが、他の業界からも軽減税率の適用を求めて政治的圧力は強まることは避けられず、利権型政治の温床となりかねない。
④国民全体の手間・コストが増大する。例えば、外食サービスにおける「イートイン」と「テイクアウト」の区分は、今も導入先進国の欧州諸国で悩みの種となっている。日本でも、コンビニのイートインコーナーのサービスをどう扱うのかなど混乱は必至だ。

 ●世界的にも非常識な措置
 なにより複数税率の導入で、「益税」や「不正還付」の拡大が予想される。
 国際通貨基金(IMF)の財政問題担当マイケル・キーン氏によれば、1990年以降、付加価値税(VTA)を導入した106カ国の76%は単一税率を採用した。99年以降でみると、81%となっている。軽減税率は世界的に非常識になりつつある。
 今回の軽減税率の幅は10%の標準税率に対しわずか2%にすぎない。欧州連合(EU)(28カ国)の現状をみると、2017年時点の標準税率が平均21.6%であるのに対し、食料品に対する適用税率の平均は11.1%であり、軽減分は10%程度に及ぶ。つまり、この程度の幅があるからこそ、税負担感の調整に役立つと考えられている。
 東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹や政府税制調査会会長も務めた石弘光一橋大学名誉教授らは、「日本でも将来、標準税率がせめて15%に達したときに、軽減税率を導入すべきであった。今回は時期尚早といえよう」と指摘している。

 ●給付付き税額控除が有効
 低所得者への対策としては、所得が増えるに従って減額され、課税最低限以上になるとゼロになる「給付付き税額控除」など検討に値する有力な案がある。消費税の逆進性を緩和するもっとも有力な方法であり、マイナンバー制導入の意義もそこにある。
 そもそも社会保障と税の一体改革は、社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保、財政健全化の同時達成を目指すものである。
 しかし、政府がこの6月15日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2018」(骨太の方針)では、消費税10%で見込まれる税収約5兆円強の内、財政再建に使われるのは、当初の計画から半減して2兆円程度とされている。これでは焼け石に水だ。
 直ちに、軽減税率を廃止して、増収分は財政再建に回し、実効性ある社会保障制度改革に取り組むべきである。