公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.12.20 (木) 印刷する

米国の報復を恐れる中国 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米中貿易戦の真っ只中、18日に行われた中国の改革開放40周年記念式典の演説で習近平国家主席は「覇権主義と強権に反対する」と述べたが、中国こそ覇権主義、強権国家ではないか。

 ●弱い者には強気に
 中国の通信機器最大手ファーウエイの副会長兼最高財務責任者がカナダで拘束された事件の直後、中国在住のカナダ人2名が拘束された。中国側の報復であろう。3人目が拘束されたとする情報もある。今回の身柄拘束は米国の要請によるものであるから、本来なら反撃の対象は米国に向くはずだが、弱い立場のカナダ人に向けられた。
 在韓米軍への終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に関しても、中国での不買運動の対象は韓国製品に向けられた。米国は叩けないから、叩き易い国を叩いたのだろう。
 中国が核心的利益とする台湾との海峡を本年7月、2隻の米艦が通過した。以後今年は3回も米艦が通峡している。中国空軍機はそれまで、定期的に台湾を周回していたが、これを機に最近まで周回は止まった。今年10月、台湾の高雄に米海軍の調査船「トーマス」が寄港した際も中国は表立った米国非難をしていない。
 米中新冷戦の宣言とも言われる10月4日のペンス副大統領演説の翌日、米国防総省は米国内の防衛産業の脆弱性に関する報告書を出している。その中で米国防産業が中国のレアアース(希土類)に大きく依存していることが指摘されている(29頁)。
 2010年、尖閣諸島周辺で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりし、日本は漁船の船長を拘束した。これに対して中国は日本へのレアアースの輸出を禁止し、中国国内の日本人を数名拘束した。
 ところが今回、中国は米国へのレアアース輸出を制限していない。米中貿易戦で極めて有効な手段であるのにもかかわらずだ。米国による報復が怖いからである。

 ●裸の王様はどちらか
 ファーウエイ事件で中国外務省の華春瑩報道官は「米国は裸の王様」と揶揄した。しかし南シナ海で人工島を建設し、それがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所で国際法違反と認定されたのにもかかわらず、これを「紙くず」として居座り、軍事化している中国こそ、世界の笑い者となっている「裸の王様」ではないか。
 毎年、中国では10月に共産党中央委員会全体会議(四中全会)が開かれるが、今年は年末になっても開かれる気配がない。10月開催がズレ込んだのは、日本が尖閣諸島を国有化した2012年、11月の開催になった時だけである。
 今回については、米中貿易戦の影響で習近平体制への批判噴出を恐れた結果だとの見方もある。中国国営テレビCCTVなどでは、全てがうまくいっているとの報道ばかりであるが、強気に見える中国首脳部の困惑ぶりが窺える。