公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.12.21 (金) 印刷する

相変わらず皮相なNHKの「不法移民」報道 島田洋一(福井県立大学教授)

 NHKのアメリカ報道の不見識と偽善性については、これまでの「ろんだん」でもしばしば指摘してきたが、2018年12月16日夜の「7時のニュース」がトップで扱った「移民の7歳少女 アメリカで拘束後に死亡」も呆れざるを得ない内容だった。まるで米当局が殺したと言わんばかりの構成で、何でもトランプ批判に結びつける姿勢も幼稚なほどの安易さであった。

 ●少女の死をトランプ批判に
 悪しき見本として文字版全文を掲げたいところだが、紙数と時間の節約から部分的紹介にとどめよう。
 同ニュースはまず冒頭、「中米のグアテマラからアメリカへの入国を目指して家族とともに国境を越えた7歳の少女が、アメリカの当局に拘束されたあと体調不良を訴え、死亡しました。移民に対して厳しい姿勢をとり続けるトランプ大統領への批判が一層高まりそうです」と述べた。
 トランプ氏が「厳しい姿勢」を取るのは「不法移民」であって、「移民」全般ではない。NHKはおそらく意識的にであろう、そうした視聴者を混同させるような表現を用いるのをパターンとする。
 少女は、他の不法越境者160人余りとともに米国境警備当局に拘束されたが、高熱を発して「2日後に病院で死亡した」。これだけを聞けば、視聴者はまるで少女が虐待されて死に追いやられた印象を受けるだろう。
 事実関係を言えば、少女以外に死亡者はいない。NHKは、なぜその少女だけが死亡したのか確認したのだろうか。
 「少女の死をきっかけにトランプ大統領への批判が一層高まりそうです」とニュースキャスターは締めくくったが、そうした状況は今に至るも起こっていない。誤報といってもよかろう。

 ●安全地帯からの無責任報道
 ファクトを欠く中、NHKはこれまたパターン通りに視聴者の感情操作に走っていく。「グアテマラに残っていた母親や祖父らは15日、メディアの取材に応じ、このうち母親は『娘は病院で一緒にいた父親の目の前で息をひきとりましたが、父親は何もすることができませんでした』とつらい胸のうちを明かしました。ジャクリンちゃん(筆者注:少女の名)は、父親を1人にさせたくないという理由で3000キロ以上離れたアメリカを一緒に目指すことを決意したということです。そして、ジャクリンちゃんは、父親がアメリカで仕事を見つけて、ふるさとに残してきた3人のきょうだいなど、生活に苦しむ家族に送金するのを楽しみにしていたということです」。
 一体NHKは何を伝えたかったのだろうか。気の毒な1人の少女の死を無駄にしないよう、アメリカは無制限に不法移民を受け入れよとでもいうのだろうか。では、もし米側が「それなら不法移民は全員船に乗せて日本に送るから受け入れろ」と言って来たらNHKはどう答えるつもりか。
 自らを安全地帯に置いた無責任な報道は、メディアとしての質の劣化を示すだけでなく、場合によっては外交的摩擦をも惹起する。
 現在アメリカには不法移民が1100万人以上いるとされる。状況が深刻だけに、日本とは比較にならないほど突っ込んだ議論が行われてきた。NHKニュースは、その表層を撫でるレベルにも達していない。