公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.12.25 (火) 印刷する

海自機を訓練標的にレーダー照射か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 12月17日の「ろんだん」で「対日関係を悪化させる韓国側の行為がエスカレート」と書いたばかりだが、その直後の20日には、韓国艦が海上自衛隊の哨戒機P-1へ射撃管制用レーダーを照射する事件が日本海で生起した。ミサイル搭載護衛艦「たちかぜ」の砲術士(Fire Control Officer:射撃管制士)として勤務した経験から直感的に言えることは、韓国艦は目標追尾訓練を行っていたのではないか、ということである。

 ●許されない韓国艦の危険な行為
 艦は対空レーダーで捜索した対空目標を識別し、それを射撃管制レーダーに目標移管する。射撃管制レーダーは指示された付近を独自に捜索し、目標捕捉(ロック・オン)する。そして目標に射撃管制レーダー波を照射したまま対空ミサイルあるいは対空砲を指向させ発射や射撃に至る。
 この一連のプロシージャ(手続き)を目標追尾訓練と呼称する。特に対空ミサイルの発射訓練は、これを何回も行って練度を高めて行くのである。
 通常、国内では航空自衛隊に依頼してジェット機を飛ばして貰うが、対空ミサイル発射訓練は通常、米国のハワイかカリフォルニア沖の射場で行うので、その場合には米軍に依頼して目標機を飛ばして貰う。しかし目標機を飛ばして貰うのには費用もかかるので、そう頻繁に飛んでくれない。艦としては練度を維持・向上するために、目標があれば、それをターゲットとして訓練したくなる。韓国艦はたまたま飛来したP-1を格好のターゲットとして目標追尾訓練を行った可能性が高い。
 しかし、ターゲットにされた方は、引き金を引きさえすれば実弾が飛んでくる状態におかれるのであり、堪ったものではない。しかも、何ら事前の連絡がないままであるから随分と舐められた話である。事案後、韓国側は「北朝鮮船捜索のため」と回答したが、水上目標の捜索には水上レーダーを使う筈であり、ミサイル・砲発射のために目標にロックオンする射撃用レーダーは適さず、この回答は理由になっていない。

 ●マティス退任も日韓の不安材料
 韓国は日本と同じ米国の同盟国である。そのため、両国間に領土や歴史認識の問題があっても、曲がりなりにも友好国関係が続いてきた。しかしトランプ米大統領は選挙キャンペーンの時から在韓米軍撤退の可能性に触れ、日本に対しても防衛・駐留軍経費の増額について言及していた。マティス国防長官は、最初の外遊先に日韓を選び、韓国では「米韓同盟の維持」を約束し、また我が国には「日本の駐留軍経費は他国のモデル」と持ち上げて関係者をほっとさせた。米側最大の利点である同盟国との協力なくして中露に対抗できないことをマティスは軍人として痛いほど分かっている。
 マティス氏の後任は、当面シャナハン国防副長官が代行を務めるが、彼はビジネス界(ボーイング社)出身で軍歴はなく、アジア問題に関しても造詣が深いわけでもない事からトランプ氏のイエスマンとなる可能性が高い。このためトランプ流の「アメリカ第一主義」がもろに同盟国に突き付けられることになりそうだ。日韓関係の将来に不安を抱かざるをえない。
 一方、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の主張が前面に出てくれば、米国の対北朝鮮政策がより厳しさを増すことになり、拉致問題を抱える日本にとって好材料となる側面も考えられる。