公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.01.07 (月) 印刷する

拡大抑止力に相次ぐ懸念 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 韓国軍艦の射撃管制用レーダー照射問題で揺れていた昨年末、米国の戦略抑止力に対する懸念を生じさせる事案が2つ生起した。1つは中国が南シナ海から米本土まで届く潜水艦発射ミサイルの試験を行ったことだ。もう1つはロシアが音速の27倍の高速で米ミサイル防衛(MD)を突破できるミサイルの発射試験に成功したことである。

 ●開発進む中国の新型弾道ミサイル
 かねて筆者は、中国による南シナ海の軍事拠点化は、米国まで到達できる弾道ミサイル搭載の潜水艦を遊弋させるための聖域化であると指摘してきた(2015年9月28日国基研報告)。現有の潜水艦発射弾道ミサイルJL-2(巨龍2号)の射程は7000km強で、南シナ海から米本土には届かないが、開発中のJL-3は射程12000km以上で米本土に十分到達できる。試験発射は11月で、欧米のメディアに出たのは丁度日韓がレーダー照射問題で沸いていた昨年12月20日前後である。
 南シナ海から米本土に到達できる潜水艦発射弾道ミサイルが配備されれば、中国が米本土に対する戦略第2撃力を保持することになり、日本に対する米国の拡大核抑止力に疑念が生じることになる。即ち「核の傘」が破れ傘となってしまうことになる。

 ●ロシアも超音速ミサイル実験成功
 一方、ロシアは12月26日、プーチン大統領が見守る中、大陸間弾道弾(ICBM)SS-19を発射、新型の超音速滑空体がロシア南東部からカムチャツカ半島に着弾した。この計画をロシアではアバンガルド(前衛)と称している。プーチン大統領はアバンガルドが米戦略MD網を突破できるとし「重大な成功、偉大な勝利」とした。
 元々、超音速滑空ミサイルは米国がオバマ政権時代に開発に着手していたが、国防予算の強制削減措置に伴う相次ぐ試験の失敗でロシアに先を越された形だ。
 中国の潜水艦発射弾道ミサイルが、米国の「やったらやり返せる」懲罰的抑止力を削ぐ役割であるのに対し、ロシアの超音速ミサイルは、米国に「やっても無駄」と警告する戦略MDの拒否的抑止力を削ぐことができる。
 いずれも米国核の抑止力に頼っている日本にとって由々しき自体であるのに、この深刻さを報じた日本のメディアは寡聞にして知らない。平和ボケしてはいないか。