公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.01.11 (金) 印刷する

いまこそ日本版「台湾関係法」を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 1月2日に中国の習近平国家主席は中台関係に関する演説で、「平和統一、一国二制度」の基本原則を堅持する姿勢を示す一方、「武力行使の選択肢を排除しない」と述べた。これに対し、蔡英文台湾総統は同日「一国二制度による統一は絶対受け入れない」と応じた。香港での一国二制度が有名無実化している現状に照らせば当然であろう。寧ろ、北京が香港コントロールを強化しながら一国二制度を台湾に迫る無神経さに呆れてしまう。

 ●台湾統一焦せる習近平
 中台関係に関する演説の翌日、習近平主席は全軍一斉の「年度訓練始動動員大会」を初めて開き、「戦って勝てる能力を獲得せよ」と訓示した。彼は明らかに焦っているように見受けられる。毛沢東は建国の偉業を、鄧小平は改革開放による経済成長を成し遂げた。それに並ぶ功績を自分があげるとしたら、それは台湾統一に他ならないと考えているのだろう。
 しかし経済面では、全て順調とする官制メディア報道とは裏腹に、昨年来の米中貿易戦争により悪化の一途を辿っている。
 3日のChinascopeは「建国以来70年にして初めて人口減少」と報じているが、一人っ子政策による人口減少が激しくなる2030年代には国力が落ちてくることは明白だ。それまでに宿願の台湾統一を成し遂げたい欲求に駆られていると筆者はみている。
 加えて、経済悪化に伴う国内の社会不安の捌け口を国外への強硬姿勢に求めて、共産党の正当性を取り戻したい気持ちも強いと思われる。
 昨年、台湾国防部が公表した『中共軍事力報告書』は「中国は2020年までに台湾全面的侵攻作戦能力の完備を目指している」とみなしている。これは2年前に米シンクタンク、プロジェクト2049の報告書と軌を一にしている。

 ●国益からの議論が足りぬ
 本件に関するテレビ討論が7日にBS-TBSで行われ、外務省の元事務次官と元駐中国大使が出演していた。ここでは中国の国内事情や「トランプ大統領は中国の台湾問題という敏感な問題がわかっておらず、ディールで考えている」という批判はあっても、我が国の国益に照らして台湾が中国に飲み込まれることが安全保障上どのような意味を持つのか、といった議論が聞けなかったことが残念であった。
 台湾が中国によって統一されてしまったら、中国は第一列島線が突破できて自由な太平洋へのアクセスが可能となる。我が国の海上交通路は今以上に危険に晒され、尖閣諸島は風前の燈となってしまう。そうならないように米国と共に台湾との関係強化に向かうべきではないのか。米中の対立により、中国が我が国に秋波を送って来ている今こそ、日本版「台湾関係法」を作り上げる最大の機会ではないかと思料する。