米朝首脳会談に世界の目が注がれる最中、インドとパキスタンが、ともに領有権を主張しているカシミール地方で戦闘機同士の空中戦を展開するなど軍事的緊張が高まっている。先月上旬、インドのビベカナンダ国際財団とのセミナー開催のため訪印した国家基本問題研究所の代表団は、これに先立ってモディ首相の国家安全保障顧問を務めるアジット・ドバル氏とも面談した。
そのドバル氏が、トランプ米政権のカウンターパートであるボルトン安全保障担当大統領補佐官との間で「パキスタンを根城とする対インド・テログループに攻撃を加えることに合意した」とする記事が2月16日のインド紙「ヒンドゥー」電子版に掲載されている。
インドからの攻撃が始まったのは、それから間もない26日である。インドは、カシミールに訓練キャンプを持つテロ組織、ラシュカレタイバに対する攻撃だと主張し、パキスタンは同テロ組織とは関係がないと主張している。
●友好国ですら見捨てる国
中国には同盟国がなく、北朝鮮とパキスタンは数少ない友好国である。印パ紛争に関しても、これまで中国は、パキスタン側の肩を持ってきた。ところが今回、中国は攻撃したインドを非難する声明を出すこともなく、翌27日には浙江省烏鎭でインド・ロシア・中国の外相がにこやかに握手する写真が中国の英字紙チャイナデイリーに掲載された。
今回の武力衝突で使用された戦闘機は、皮肉にもインド側がロシア製のMig-21、パキスタン側は米国製のF-16と中国製のJF-17で、インドのMig-21が撃ち落とされている。北京は冷淡にも「今次の軍事衝突に中国は介入しない」としてパキスタンを弁護していない。パキスタンは撃墜したインド人パイロットを解放し、米国とも紛争の早期集結を望んでいることから、間も無く収束に向かうであろう。
なぜ中国はパキスタンを支援しないのか。理由はいくつか考えられる。現下の米中関係の厳しさから、中国が、インドを支援する米国との対立をあえて避けたということはありうる。
世界開発センターが昨年公表したところによると、対中債務で危機状態にある8カ国の内、最大の債務を抱えているのがパキスタンである。そのことも理由の一つかもしれない。パキスタンは中国に累計620億ドルの債務軽減を要請しているが認めてもらっていない。
何れにしても中国は、事情次第で友好国であっても簡単に見捨てる国だということだ。
●中東安定化でも頼りにならず
2月28日、国基研が主催する原子力発電に関する月例研究会が都内で開かれた。我が国のエネルギーの大口輸入先であるイランは、パキスタンの隣国でもある。イランは核合意から離脱した米国の経済制裁により国内が不安定化し、ホルムス海峡を封鎖する挙に出るかもしれない。
しかし、米国は国内のシェールガス発掘により、もはや中東にはエネルギーをほとんど依存していない。兵力を出してまでホルムス海峡を守る気はないであろう。
サウジアラビアの国内情勢も不安定である。我が国としては、中東のエネルギー確保を目的に独自に自衛隊を派遣することは憲法上の制約からできないだろう。
だからといって、日本と同様、中東にエネルギーを依存している中国、韓国の兵力に頼ることは考えられない。だとすれば、我が国としては、やはり原子力発電の推進を図る以外に道はないのである。