2月27日の産経新聞朝刊に、アメリカの元朝鮮半島和平担当大使ジョセフ・デトラニ氏のインタビュー記事が載った。ちょうどベトナム・ハノイで2回目の米朝首脳会談が始まったタイミングであり、米国の北朝鮮問題「専門家」の平均的思考を知る上で興味深い。
デトラニ氏は20数年の米中央情報局(CIA)勤務を経て、六者協議担当特使、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)米国代表などとして北朝鮮の核問題に関わった。中国語に堪能とされる。私も国務省内で過去に数度面談の機会を得た。
●「表明」だけで「大きな前進」
そのデトラニ氏は次のように語る。
「(北朝鮮は)今回の会談の共同声明で『完全かつ検証可能な非核化』に加え、核兵器の原料となる核分裂物質の生産と弾道ミサイルの性能向上に関し『全面凍結』を表明すると思われる。そうなれば大きな前進だといえる」
核・ミサイル開発の「全面凍結」というと響きはよいが、要するに現有の核やミサイルは放棄しないという意味である。しかも、その意思の「表明」だけで「大きな前進」と捉えるのが宥和派に特徴的な発想である。
デトラニ氏はさらに続ける。
「米国は国連安全保障理事会の北朝鮮制裁を非核化実現まで解除しない立場を明確にしている。しかし、それは北朝鮮に非核化を動機づけるための経済支援を禁じるものではない。『次善の策』はあっても構わない。具体的には学校や病院や孤児院などを対象とした食糧や医薬品などの人道支援やエネルギー支援、北朝鮮の金剛山(クムガンサン)観光や開城(ケソン)工業団地の再開を含む、南北の経済協力事業の拡大を容認することなどが想定できる」
●結局タダ取り許すだけ
要するに、韓国・文在寅政権と見事に歩調を合わせた主張である。「北朝鮮に非核化を動機づけるための経済支援」とは、韓国の金大中元大統領が唱えた「先供後得」と同じく、相手に先に物を与えるという立場で、結局北にタダ取りを許すことになる。
デトラニ氏も、「北朝鮮が主張する『行動対行動』が、(譲歩を小出しにして最大限の見返りを得ることを図る)『サラミ戦術』の可能性はある」と述べてはいる。
しかし、そう警戒の言葉らしきものを発しつつ、行動の次元では譲歩に譲歩を重ね、しばらくすると「完全に騙されていた」となるのが、宥和派主導の外交パターンだった。デトラニ氏のインタビューを読むと、彼らの反省のなさに改めて驚かざるを得ない。
不安定なトランプ氏が安易な妥協に走るのでは、と危惧する声が多く聴かれる。アメリカでも日本でも、そう述べる「専門家」の多くが、デトラニ氏同様、安定した宥和派だという点に、真に危惧すべき点がある。