中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)開催に合わせて、米国有数の中国専門家エリザベス・エコノミー氏が、習近平政権の内外政策の行き詰まりを端的に説明する論文を外交専門誌フォーリン・アフェアーズ(電子版)に発表した。同氏は「(習近平国家主席が進めた)強すぎる党統制は経済の停滞と社会の不満を招き、一方で強すぎる野心は習主席の新世界秩序の構想を歓迎した多くの国の熱意を冷ました」と書き、習主席の強権的な内外政策が挫折含みであることを際立たせた。
●経済の国家管理が足かせに
米有力シンクタンク外交問題評議会のアジア研究部長を務めるエコノミー氏は3月6日付のこの論文で、習主席自身への権力集中や、南シナ海の人工島軍事化、勢力圏拡大構想「一帯一路」の進行などを習主席の「実績」として列挙した。その一方で、「習主席が好む経済の国家管理は、より効率的な民間資本部門を困窮させた」と指摘し、その結果として、「習主席の権力強化は中国経済に負担をかけただけでなく、海外に展開する中国企業について(党の指示通りに動くのではないかという)疑念を生じさせた」という否定的効果をもたらしたと論じた。
同氏は「習主席の政治モデルが生み出した諸問題を解決するには、重要な軌道修正が必要だ」と主張した。具体的には経済分野で、民間部門を国有企業に優先し、外国資本に公平な競争の場を提供する構造改革を提案した。また、「一帯一路」の運営方法を見直し、透明性、リスク管理などの国際的基準を適用するよう求めた。
政治分野では、①海外在住中国人を国家目的の手段として利用することの減少②香港や台湾に対する高圧的な政策の取り下げ③国内のウイグル人やチベット人に対する抑圧政策の大幅緩和―によって、中国のイメージとソフトパワーを回復するよう呼び掛けた。
●軌道修正か政権交代か
エコノミー氏は結論として、「習政権の下で中国政府は内外に影響力を拡大したものの、地方政府のまひ、出生率の低下、国際社会の反発といったマイナスの結果も生んでいる。習主席が軌道修正をしなければ、バトンを次の政権に渡す必要が出てくる」と述べ、政権交代の可能性にまで言及した。
習政権が抱える問題点をこのように明確に整理した論文は、日本でほとんどお目にかからない。少なくともインド太平洋地域の覇権を目指す国家として、中国の能力と行動を監視することは重要だが、警戒心をただあおるのではなく、エコノミー論文のように、中国の弱点を冷静かつ客観的に分析する態度もまた必要であろう。