今月5日に開幕した中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)で、2019年の国防費は前年実績比で7.5%増の1兆1898億7600万元(約19兆8000億円)になると報告された。18年の伸び率(8.1%)は下回ったものの、依然、GDP成長率目標(6〜6.5%)に比べるとかなり高い。そうした批判を意識してか、早速8日の中国英字紙チャイナデイリー(電子版)には「中国軍事支出は他国に脅威を与えない」とする記事が掲載された。
その中で「中国の国防費は最近何年か増加しているが」と書いてあるが、実体は1989年から2015年まで30年近く2桁の伸び率を継続してきたのだ。
●〝隠れ国防費〟で実態は不明
中国の国防費には、外国からの武器購入費や軍事関連の研究開発費が、諸外国並みに計上されていないことはよく報じられている。加えて、近年まで行われていた人民解放軍兵士による商業活動で得られた収入の再投資(軍隊予算外経費) や予備役・民兵にかかる準軍事的部隊費も計上されていない。こうした〝隠れ国防費〟を入れると、公表値の倍近くに膨れ上がり、優に日本の防衛費の5〜6倍にはなる。
2018年の「米国防戦略」には中国軍近代化の目標が「インド太平洋地域の覇権を握るという短期目標と、将来的には米国の世界的優越に取って代わること」と示されている。こうした国家目標に基づき、着々と軍事力を高める中国の姿勢に変わりがないことを我々は認識する必要がある。
安倍総理は2007年、日米豪印の4カ国による安全保障協力構想を打ち上げたが、7日のニュースでは、米太平洋軍司令官のデービッドソン海軍大将が「本構想は棚上げすることになるかもしれない」と表明した。
理由は、どうやらインドが本構想に積極的でなく、依然としてロシアから最新の原子力潜水艦を導入するような動きを見せていることに一因があるようだ。
●核心的利益達成への大戦略
米戦略・予算評価センターのトシ・ヨシハラ氏他1名の共著で、中国の海洋戦略を分析した『太平洋の赤星(Red Star over the Pacific)第二版』が最近出版され、8日、都内で出版説明会が行われた。
同書の151頁には、人民解放軍が日本国・グアム島内にある米軍基地や洋上の米海軍艦船、そして衛星に対する攻撃予測図が描かれており、234頁には、米海軍の対艦ミサイルに対し人民解放軍海軍の保有する対艦ミサイルが射程(米国が最大260kmに対し、中国は倍以上の556km )、種類(米国の3種に対し、中国は6種)ともに圧倒していることが図示されている。同書には、こうした人民解放軍の拡張目的が「中国の偉大なる復興」や台湾統一をはじめとする核心的利益を達成する大戦略の一環と結論づけている。
ヨシハラ氏は、中国が台湾統一のための武力行使に踏み切れば、南西諸島の一部を含む海空域で外国艦艇・航空機の侵入を阻止するための航行・飛行禁止域が中国によって設定され、「それは日本の主権が侵害されることだ」と語っていたのが印象的だった。こうしたなかで蔡英文台湾総統は日本に安保協議を持ち掛けているが、河野太郎外相は記者会見で、「日本と台湾との関係は非政府間の実務関係を維持していくというので一貫している」と冷たかった。是非再考を促したい。