公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.05.07 (火) 印刷する

安全保障の総合力で中国に劣る日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 5月2日に米国防総省が、本年の『中国の軍事・安全保障分野の動向に関する年次報告書(Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2019)』を公表した。日本の主要メディアは、今回の様々な特徴を報じていたが、筆者は特に安全保障の総合力で日本が遥かに中国に劣っていると感じたので、その点を記したい。

 ●軍民協力拒否する学術会議
 報告書は、21頁目にまるまる1頁を割いた「民軍一体(Civil-Military Integration: CMI)」に関する記述がある。中国の指導者が、大学や企業と人民解放軍が一緒になって防衛技術等を発展させ2030年までに軍の近代化を成し遂げ、2049年には世界トップクラスの軍を完成させることを目指している実態が描かれている。
 これに対して日本学術会議は一昨年、軍事的安全保障研究を拒否する声明を出した。また、米国では中国人留学生のビザを制限しはじめているにも拘らず、日本の大学では逆に中国人留学生の受け入れ制限をむしろ緩和している。
 日本の軍民共用技術については、朝鮮総連を経由して北朝鮮に流れているという情報もある。「自衛隊には協力しないが、敵国の軍への協力は無制限」というのが日本の実態である。

 ●「平和」とは戦わないことか
 報告書の52頁目には人民解放軍海軍が、準軍事組織の海警(沿岸警備隊)や海上民兵との相互運用性を強化している実態が描かれている(Increasing Interoperability with Paramilitary and Militia)。
 日本には海上民兵の組織はない。また海上保安庁は海上保安庁法第25条により、軍事組織化、軍事機能の保持を禁じられている。海上自衛隊との相互運用性が欠落していることによる問題点は、「ろんだん」でもこれまで繰り返し指摘してきた。
 中国の人口は日本の約10倍、国防予算は約5倍であるから、日本は限られた資源を総合させて有効に活用しなければ対抗できないのに、実態は逆になっている。
 平成から令和へと移行する中で、日本の主要メディアは元号に「平和」を重ねるだけの記事のオンパレードであった。平和が大切であるのは勿論であるが、主権を侵害されてまで戦わなくて良いのか?中国には尖閣諸島を脅かされ、韓国には竹島を、ロシアには北方領土を不法占拠されている。日本の主権を侵害され、北朝鮮には日本人を拉致されたままで、日本周辺海域には弾道ミサイルを打ち込まれている。
 領土・領海にまで弾道ミサイルを打ち込まれた場合も、日本はひたすら「平和」を唱えるだけで戦わずにいられるのか。「平和」の意味を改めて考えてみるべきである。