公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.05.07 (火) 印刷する

「防衛大学校の闇」に猛省が必要 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 日本テレビが4月22日に放映したNNNドキュメント「防衛大学校の闇 連鎖した暴力…なぜ」を見た。幹部自衛官を養成する防大に蔓延る上級生の下級生に対する常軌を逸したパワーハラスメントに伴う裁判を報じたものである。筆者は2005-2013年の間、防大の教授であった。毎年、教官の相談員(Faculty Advisor-FA-)として1年生3-4人を受け持ち相談に乗っていたが、その時からこうした醜聞は学生から聞いて胸を痛めていた。しかし、教授が属する教務部から声を挙げても、学生の服務を所掌する訓練部には、なかなか届かなかった。

 ●あってはならぬイジメや暴行
 テレビ放映の数日前に、ある場所で防大校長の講演を聞くことがあったが、番組の内容に関しては「何年も昔のことを取り立てて…」と反省の言葉はなかった。事案は2013年以降に入校した学生が一連の不当なイジメや暴行から退校を余儀なくされたとして訴訟を起したものだが、他にも理不尽なイジメによって退校せざるを得なかった学生もいたという。
 少子高齢化で、ただでさえ自衛官のなり手が減少している時に、大切な人の子を分別のないイジメで退校させたのであれば、国家にとっても大きな損失である。筆者は、校長はもちろん当時学生の服務指導に責任を持っていた幹事(陸将)や訓練部長(海将補)も処罰の対象にすべきであると思っている。
 ヘマを仕出かした下級生に、何らかの罰を与えることは、我々が学生であった昭和40年代から行われてきたが、裁判沙汰になるほどの陰湿さはなかった。

 ●世界一を目指すというなら
 現校長は「防衛大学校を世界一の士官学校に」という目標を掲げているが、陰湿なイジメに対する反省なしには達成されまい。筆者は、防大の国際教育研究官として主要国数十の士官学校を視察し『世界の士官学校』(芙蓉書房出版)を上梓したが、その経験からも防大のレベルは世界のトップレベルの士官学校にはまだまだ及ばない。
 理由の一つは英語能力が、諸外国の士官学校のレベルに比して極端に低いことだ。もう一つは、授業中にほとんどの学生が居眠りをすることである。筆者は米海軍士官学校で交換教官を2年間務めたが、授業中に居眠りする学生を見たことがない。防大教授時代は、モグラ叩きのように一人起こせば、別の学生が居眠りを始めるといったことの連続であった。
 防大の学校長には著名な学者が就任することが多いが、中にはテレビ出演などに忙殺され、普段から学生と接して親身な指導をする機会が乏しい人もいる。諸外国の士官学校では例外なく、士官学校の卒業生で学生の見本となる将官が学校長となっている。
 防大の猛省を促したい。