報道によれば、トランプ米大統領は、無人偵察機の撃墜に対する報復としてイランのレーダー施設等3カ所に対する攻撃を承認したものの、国防総省の将官が「攻撃によるイラン人死者は約150名」としたところ「(無人機を失ったことに)比例した反撃にはならない」として攻撃10分前に撤回したとされている。
敢えて言えば、報復の連鎖によって米国が中東に足を取られれば、結果として中国を利するという事をも考慮して攻撃を留まってもらいたかったと思う。
●パウエル8原則に思い致せ
筆者が在米日本大使館の防衛駐在官(駐在武官)であった1997年、ボスニアへの派兵を主張する当時のオルブライト国務長官は、これに慎重なコリン・パウエル統合参謀本部議長と激論になった。
そのパウエル氏は、後に武力行使に際しての次の8原則を示した。それは①死活的な国家安全保障上の利益が脅威を受けているか②明確で達成可能な目標があるか③リスクとコストは十分かつ率直に分析されたか④非暴力的手段は全て完全に試しし尽くされたか⑤出口戦略はあるか⑥軍事行動によってもたらされる結果をも十分考慮したか⑦米国民から支持されているか⑧世界から広範囲な支持を獲得しているか―の8項目からなる。
さらに防衛関連メディアのDefense Oneには「国防総省にとってドローンを失うことは取るに足らない(How the Pentagon Nickel-and-Dimed Its Way Into Losing a Drone)」といった記事も出ている。イランに対する武力行使は、もたらす結果をも考慮して慎重であるべきだ。
●中国を利すイラン攻撃
さらに6月12日の『焦点の外交政策(Foreign Policy In Focus)』に「ボルトン国家安全保障担当補佐官はイランと戦いたがっているが国防総省(Pentagon)の目は中国に」という記事が出た。これはある意味、真相を突いていると言える。
昨年12月に、全軍から尊敬の目で見られていたマティス国防長官が辞任した。そして本年1月から国防長官代行に任じられていたシャナハン氏は、国防長官への指名を辞退して辞意を表明した。
トランプ大統領は次期国防長官としてマーク・エスパー陸軍長官を昇格させると発表した。エスパー氏は陸軍士官学校卒で、湾岸戦争では空挺師団の一員として戦った経歴を持っている。
彼は、対中強硬派としても知られており、「今イランと事を構えれば、9.11後に中東に集中して中国を利することになった二の舞になる」としてトランプ大統領を諌めたのであれば、幸いである。