公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.06.18 (火) 印刷する

政府は自衛隊のホルムズ派遣の備えを 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 日本の海運会社が運行するケミカルタンカー「コクカ・カレイジャス」が13日、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で攻撃を受け、船体が大きく損傷した。実は、日本のタンカーが同海峡で攻撃を受けたのはこれが初めてではない。2010年7月にも商船三井保有の大型原油タンカーM.STARが吸着機雷による攻撃を受けている。この時は、イスラム教シーア派のイランと対抗するスンニー派のアルカイダ関連テログループが犯行声明を出している。筆者は、この年の11月、オマーンの海軍司令官と在オマーンの森元誠二大使同席の下、この吸着機雷について意見交換を行ったことがあり、その経緯はよく記憶している。

 ●米国はエネルギー純輸出国に
 その経験から言っても、今回犯行については分からないことが多い。米国はイランの犯行だと断定したが、公開したイラン革命防衛隊ボートの写真は、吸着機雷を外す写真であって、装着の証拠写真とはなっていない。また「コクカ・カレイジャス」の乗組員は、空中からの飛来物によって損傷を受けたと証言している。この写真を以ってイラン革命防衛隊の仕業と断定することは難しいのではないか。
 ポンぺオ米国務長官は、安倍晋三首相がイラン訪問中に日本のタンカーが狙われたので「日本は侮辱された」とする声明を出したが、襲撃する側にとってみれば「コクカ・カレイジャス」はパナマの国旗を揚げていた。これも日本を意識して攻撃したと断定するのは無理がある。
 とはいえ、この海域を航行する日本船舶の危険度はさらに増すことだけは間違いなさそうだ。気がかりは、それに対する日本の取り組みが十分とは言いかねることである。
 現在は米国主導の合同任務部隊「CTF152」がペルシャ湾、ホルムズ海峡の安全保障に従事しているが、米国は国内のシェールガス革命により、来年からエネルギーの純輸出国になるとも見られている。このため米国は、これまでの様にエネルギー確保のために自国の海軍力を使用する可能性は少なくなっている。この海域でのタンカー攻撃がエスカレートした場合、エネルギーを大幅に依存している日本は主体的に自衛隊派遣をせざるを得なくなるのではないか。

 ●日本が問われる主体的防衛の覚悟
 1980年代のイラン・イラク戦争時、米国はホルムズ海峡の防衛に艦艇派遣を行ったが、海峡を通過するタンカーは殆どが日本にエネルギーを運搬する船で、その頃から米国には「日本は安保タダ乗りか」という批判が燻っていた。ましてや自国第一主義のトランプ大統領のことである。今後は同海峡の安全保障については「エネルギーを依存している国々が主体的に維持すべき」と主張するのは目に見えている。
 日本のタンカーなどへの攻撃が続いた場合、2016年に制定された平和安全法制の「存立危機事態」になるのか「重要影響事態」になるのかは今後の推移にもよると思うが、いつでも対応できる様に準備だけはしておく必要があるであろう。
 平和安全法制の制定は大きな前進ではあったが、問題は憲法で存在すら正当化されていない自衛隊にエネルギー安全保障をますます頼らざるをえないという現実である。この事実を国民はどう認識しているのであろうか。