公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • 【韓国情勢】韓国良識派、もう一つの声 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)
2019.07.11 (木) 印刷する

【韓国情勢】韓国良識派、もう一つの声 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 文在寅政権は日本がとった対韓輸出優遇措置の廃止を「経済報復」だと無理やり規定し、国民の反日感情をあおって支持を得ようとしている。それに対して、韓国の良識的保守派は戦時労働者の最高裁不当判決や慰安婦合意破棄により、文在寅政権が国家間の約束を破ったことから今の関係悪化が生まれていると指摘。まず、日本を批判する前に文政権が反日親北政策を止めることが先決だと主張している。
 野党保守勢力も、文政権と与党が反日感情を刺激して事態を悪化させていると批判し、このようなときこそ感情的にならず外交的解決を模索すべきだと落ち着いた意見を出している。
 日本のマスコミがほとんど紹介しない韓国保守派の良識的意見を知るために、趙甲済氏が文在寅大統領の日本批判発言を全面的に論破した「趙甲済テレビ」のコラム(2019年7月8日、YouTubeにアップ)を全訳し、以下に紹介する。

過去の記事はこちら

韓国国民と野党が文在寅政権の対日外交に協力できない理由
日韓関係を悪化させた原因は文在寅政権の親北反日政策
 

 文在寅大統領は7月8日、青瓦台の首席秘書官会議で日本の貿易制限措置に対して次のような立場を明らかにしました。

 「最近日本の貿易制限措置により韓国企業の生産への支障が憂慮され、全世界の供給網が脅かされる事態になりました。互恵的な民間企業間の取り引きを政治的目的によって制限しようとする動きに対して、韓国だけでなく全世界が憂慮しています。前例のない非常事態において何より重要なのは、政府と経済界が緊密に意志を疎通して協力することです。事態の進展によっては官民による非常対応体制の構築も検討しなければなりません。大統領府と関連部署がみな前面に出て、状況変化にともなう当該企業の隘路を直接聞き、解決方案をともに議論して、必要な支援を惜しむべきではありません。
 一方で政府は外交的解決のためにも着実に努力していきます。対応と報復の悪循環は両国にとって決して望ましくはありません。しかし韓国の企業に被害が実際に発生する場合、わが政府でも必要な対応をせざるを得ないでしょう。私はそうなることを願いません。日本側の措置撤回と両国間の誠意ある協議を促します。貿易は共同繁栄の道具でなければならないという国際社会の信頼と、日本がいつも主張してきた自由貿易の原則に戻るよう願います。日本は経済力で私たちよりはるかに先んじる経済強大国です。与・野党の政界と国民が力を集めなければ政府と企業が困難を克服していくことができません」

 このように文在寅大統領は政界と国民が力を集めてほしいと言いました。政界と国民が力を集めるためには、大統領にこの間の対日政策が正当であったという確信がなければなりません。ところが、そのような確信を与えることができていません。
 文在寅大統領の対日政策は、まず朴槿恵政権の対日外交、国益守護外交を積弊だと規定することから出発しました。2015年12月の朴槿恵・安倍の慰安婦最終合意を否定することから出発しました。そのために、文在寅政権の対日政策を国民が支援することはできません。
 しかし、国家と国家の約束は政権が代わっても守らなければならない。これが国際法の大前提です。政権が代わる度にその前の政権の国際間の約束を無視してしまうなら、どこの政府が大韓民国を相手にして約束をしますか。その上、朴槿恵・安倍の慰安婦最終合意は内容がよかったのです。これ以上望めない内容でした。ですから、それで終わらせなければならないのです。ところが、再び問題を提起する程度でなく、それを積弊だとして覆し、合意をまとめた外交文書を一方的に公開したではありませんか。
 また、徴用工問題も同じです。1965年の請求権協定ですでに終わった徴用工への賠償問題に、そして歴代政権も皆、終わったとしてきた問題に、大法院(最高裁判所)がそれと異なる判決を下しました。もちろん、請求権協定に従うなら徴用工に対する賠償判決は不可能だという、2人の判事による少数意見がありましたが、多数意見は賠償判決を下しました。これも検討してみれば文在寅政権と大法院が同じ脈絡で行動したのではありませんか。文在寅政権の性向がそこに投影されています。
 そのため朴槿恵政権時代は裁判を延期して、その間に政府が努力できる時間を確保したのに、それまでみな問題視して、今回のような報復が来るであろうことが確実な判決が下され、その判決の執行過程で日本企業の財産が差し押さえられたので、日本が経済報復あるいは貿易制限措置をとったのです。みな予想されていたことです。
 それなのに、今になって国民に助けてほしい、政界に助けてほしい、外交には与党野党はない、と言っています。外交には与党野党があるということを見せてくれたのが文在寅勢力ではありませんか。
 高高度ミサイル防衛システム(THAAD、サード)の配備に中国が反対したとき、当然大韓民国の側に立つべきなのに、中国側に立って朴槿恵政権のサード配備に反対したのが文在寅勢力ではないですか。それが今になって助けてほしいというのですから、全く説得力がありません。
 文在寅大統領は今日、こんなことを言うのではなくて、安倍総理の発言に反駁しなければなりませんでした。安倍総理は、韓国は国家間の約束を守らない、だから貿易管理も信じられない、だから貿易制限措置をとる、と話しました。全体的に韓国を信じられないと公に語ったのです。それに対して文在寅大統領の言葉はあまりにも柔らかすぎます。そんな言い方ではだめです。
 安倍総理の発言は韓国の国家的権威に対する挑戦でした。どうして大統領がその部分について答えず、このように浅薄な話をしたのか、誰が見ても自信がない、論拠が不足している発言だということが分かります。文在寅政権が大韓民国と日本との間の約束に違反したのか、しなかったのかが問題なのです。違反したのなら、文在寅政権の対日政策は国家利益に害を与える方向に行っているということです。そうだとすれば、どうして野党や国民が文在寅政権を助けることができますか。
 文在寅政権の対日政策は対北政策と連係しています。文在寅政権は今、金正恩のための対北政策を行っています。金正恩一人のための政策です、北朝鮮住民のためでもありません。大韓民国国民だけでなく北朝鮮住民まで、すなわち韓民族全体に敵対する政策をしながら、同時に日本に敵対的に向き合っているのではないですか。
 世界が認めている旭日旗を戦犯旗として烙印を押して観艦式に来ることさえできなくし、ことごとく日本に敵対的に接した結果、このような事態を招いたのです。対北政策と対日政策が一つのセットとして展開しているのではないですか。
 むしろ、文在寅政権の内部には韓日関係を破綻させ、韓米同盟を攻撃しようという勢力がいるのではないですか。主体思想派が転向していないのですから、そのような考えを持っているとみるべきです。それなのに今になって国民や野党に向かって助けてほしいと言えるのですか。
 これに対して野党・自由韓国党の黃教安(ファン・ギョウアン)党代表と羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)院内代表が悩ましい発言を今日しました。同党最高委員会議で黃教安党代表は次のように苦しい立場を明らかにしました。

 「青瓦台の政策室長は日本の経済報復について十分に予想できたといいながら、まっとうな対案を出すことができずにいます。金融委員長は日本が資金を引き上げても、他から借りればよいと話しました。全く現実的でない輸入先の多元化や素材部品の国産化は当面の危機の解決策にはなりえません。与党でも急いで特別委員会を作ると言うが抗日義兵(文禄慶長の役や李朝末期に日本軍と戦った非正規軍)を起こそうなどという感情的反応は望ましくありません。果たしてこの時点で国民の反日感情を刺激することが国益にプラスになるのだろうかと思います。それでも今になったとはいえ、青瓦台の政策室長と経済副総理が企業のトップと会って意見を収斂し、大統領もあさって大企業30社のトップと懇談会を持つというのは、遅くなりましたが期待を持っています。文大統領は企業の憂慮と苦しさをよく聴取して、それを解決できる実効的な方案を出さなければなりません。何よりもこの問題は結局、政治と外交から始まったのですから、政府次元での外交的解決策を急いで準備しなければなりません。わが自由韓国党は政府が正しい解決策を出すなら、国民と国家のために超党派的に協力をするとお約束します」
 かなり教科書的な模範解答です。
 次に羅卿瑗院内代表はこう言いました。

 「日本の経済報復措置に伴って産業界全般に恐怖の雰囲気が造成されています。安倍総理が今、韓国の対北制裁違反の可能性を持ち出しました。根拠のないこの発言について、安倍総理は責任をとるべきです。根拠があるならば、正確に明らかにすることを要請します。最近の日本の通商報復措置について、我が国国民の憤怒と失望は日ごとに拡大しています。不買運動、拒否権(veto)運動などが国民の中で言及されています。私はこのようなときだからこそ、我が国政府と政界は沈着な論議が求められていると思います。ところが昨日、与党が見せた姿は無責任だったのではないか、心配だと申し上げます。事実上、与党が反日感情を刺激し、それを政治的に活用しようとしているのではないか、という憂慮がある中で、国会がするべきこと、政界がするべきことは、経済制裁を止めて危機を克服することであり、それに重点を置くべきだということを再度申し上げます。歴史の葛藤を経済報復に持って行く日本政府のやり方や、そのような日本に反日感情を刺激することで対抗する与党はみな、円滑な韓日関係の発展を妨げるものです。政治は国民の生活に対する無限責任があります。政界までもが感情にまきこまれては国益が失われるだけです。今は解決策を準備することが最優先課題です」

 2人とも今は感情的反日ではだめだ、反日感情を刺激するときではなく政府が外交的解決策を出すべきだというのです。慎重な発言です。野党指導者2人の発言が文在寅政権の対応よりもより信頼が持てます。