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2019.09.17 (火) 印刷する

北東アジア情勢揺るがしかねぬ香港デモ 矢板明夫(産経新聞外信部次長)

 香港で「逃亡犯条例」改正案を機に起こったデモが6月から拡大し、世界中の関心を集めている。デモの当初は、条例案の撤回のみを求めていたが、その後、「行政長官の辞任」や「直接選挙の導入」などの要求に変わり、「香港を取り戻す、革命の時代だ」が合い言葉となった。これまでの中国支配に対する香港市民の不満が一気に噴出し、自由と民主主義を求めるデモとなった。
 香港の林鄭月娥行政長官が9月4日、条例案の撤回を発表したが、デモはその後も続き、長期化する様相を呈している。

 ●打つ手なしの香港当局
 中国は10月1日に建国70周年という重要イベントがあり、10月下旬には共産党の重要会議である第19期中央委員会第4回総会(4中総会)がある。香港市民の抗議がこれ以上長期化すれば、国内の都市に波及する可能性があり、社会の安定と政局に悪影響が及ぶことは必至だ。
 北京の習近平指導部は香港政府に対し、デモの早期鎮静化を求めているが、香港政府は今のところ、有効な対策がまったく取れていないのが実状だ。
 今回のデモが、1989年の天安門事件や2014年の香港の雨傘運動と大きく異なる点は、デモ参加者が市中心部の広場などを占拠し続けているわけではなく、週末ごとに市中心部に集まってくるスタイルを取っていることだ。
 集まってからの強制排除は難しい。対策を取るなら、市民たちによるデモを事前に規制する必要があるが、今の香港の法律では、無許可デモを呼びかけたり、参加したりするだけで、その当事者を逮捕することは難しい。

 ●早期収束狙う中国当局
 共産党関係者によれば、中国当局は今、デモを早期に収束させるために、香港の「緊急状態規則条例」(実質上の戒厳令)、または、香港基本法第18条の適用を考えているという。基本法第18条が発動されれば、中央政府が非常事態を宣言し、秩序回復の名目で武装警察部隊を送り込み、デモのリーダーらを大量拘束して中国国内に連行することができる。
 しかし、これらの条例や法律を発動するには、香港で「大きな動乱」が発生することが前提条件だ。中国当局が、広東省から香港に私服警察などを大量派遣し、地元の暴力団と連携してデモに合わせて、人為的に「動乱状況」を作り出す計画があるとする情報もある。
 これまで香港デモのさなかに起きた一連の暴力事件についても、中国当局が背後で関与していたと伝えている香港紙もある。
 香港の問題は今後、どうなっていくのか不透明だが、一つだけ言えるのは、中国政府と香港市民の対立は、もはや構造的な問題になっているということだ。デモが一時的に収まったとしても、民主化を求める動きは、今後も絶えず現れ、それを弾圧する中国当局との攻防は長年続くことは確実だ。民主化VS強権政治という香港問題は、北東アジア情勢に大きな影響を及ぼす可能性もある。