公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.09.17 (火) 印刷する

在韓米軍の撤退に備えよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を韓国が一方的に破棄を決めたことにより、米韓関係も極めて厳しくなってきた。嘗て1970年代末期に米大統領となったカーター氏は在韓米軍の撤退を選挙公約に掲げたものの実現できなかったが、韓国の文在寅現政権と同じ左翼政権であった盧武鉉政権時代の2004年に米国は、在韓米陸軍の主力である第二歩兵師団隷下の一個旅団をイラクに派遣して、その後、韓国に復帰させていない。
 1個歩兵師団の隷下には通常3個歩兵旅団が配されるが、現在の在韓米陸軍は第二歩兵師団と言っても1個歩兵旅団しか配されていない。この陸軍部隊と、主として韓国西岸に配備されている空軍部隊を何時撤退させるかが今後の米韓関係を占う上での注目点であろう。

 ●低下する韓国防衛の意欲
 そもそも北朝鮮が韓国に侵攻した朝鮮戦争で、米軍の反撃がなかったら、韓国は地上から抹殺されていた。北朝鮮が韓国に侵攻すれば在韓米軍が即座に反撃する。それが北朝鮮に対する抑止力となってきた。
 しかし北朝鮮に融和的で、昨年4月の南北首脳会談後は北朝鮮軍に対する偵察行動すら停止してしまった文政権に対して、米国は敢えて自国民の血を流してまで韓国を防衛する必要はないとの判断に傾きつつある。韓国が自国防衛のために米軍の配備を望むなら、これまで以上に受け入れ国支援費を負担すべきであると米国は考えているようだ。
 しかも、最近の北朝鮮の相次ぐ短距離弾道ミサイル・多連装ロケット砲の発射では、性能向上に加え、弾道ミサイル防衛が機能しない恐れが生じている。敢えて米軍を危険に晒してまで韓国を防衛する意欲が低下してきている。来年中ごろを目標に米韓連合司令部の指揮権を韓国に移譲するプロセスもそうした文脈で捉える必要があろう。
 加えてトランプ大統領は、昨年の米朝首脳会談以降、米韓合同軍事演習を金の無駄遣いだとして縮小・削減してきた。トランプ氏は、在韓米軍の撤退を最も望んでいる北朝鮮と今後交渉するうえでのカードと考えているかもしれない。
 日本にとって、北朝鮮や中国、ロシアといった大陸専制国家との最前線が対馬になるだけでなく、最悪の場合、約60万の韓国軍が大陸専制国家群側に組み込まれる可能性をも見据えておかなければなるまい。

 ●同盟国すら平気で欺く現実
 韓国のGSOMIA破棄によって、もう一つ明らかになった事がある。昨年末、海上自衛隊の哨戒機に韓国海軍艦が射撃管制用レーダーを照射した事案があったが、韓国側は逆に海自哨戒機が低空で威嚇飛行したとして非難した。国際社会としては、どちらが嘘をついているのかわからない状態が続いていた。
 しかし今回、日韓GSOMIAの破棄に際して韓国政府は「米政府も理解した」と説明したのに対し、米政府は、これを明確に否定した。韓国政府は同盟国に対しても平気で嘘をつくことを国際社会に知らしめる結果となった。いわゆる慰安婦や戦時朝鮮半島労働者、そして竹島の問題でも、これまでの韓国の主張には正当性がないことを国際的に証明するに至った。
 日本が輸出手続きで優遇対象とする「ホワイト国」から外したことについて韓国は、世界貿易機関(WTO)に提訴した。このため日韓の二国間協議を行わなければならないが、射撃用レーダーの照射問題で、いくら証拠を突きつけても物別れに終わった経緯から、徒労に終わる可能性が大きい。国家間で合意した約束すら平気で反故にする国への不信感は拭い難いものがある。