公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2019.09.17 (火) 印刷する

オイルショック前夜の兆候 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 14日にサウジアラビア東岸の国営石油会社施設二箇所が数十機の無人機(ドローン)と巡航ミサイルによって攻撃を受けた。イエメンの親イラン武装組織フーシ派が犯行声明を出したが、ポンペオ米国務長官は攻撃にはイランが関与していると主張し、トランプ米大統領は備蓄石油の放出を決断した。サウジも、攻撃したドローンがイラン製と断定している。
 15日のニューヨーク市場の原油先物価格は一時1バレル63ドル代と先週末の終値より15%上がった。一日の値上げ幅としては1992年の第一次湾岸戦争以来である。
 本件は、我が国の安全保障にとって2つの大きな意味を持つ。ひとつは、今後の潜在的な米国のイラン攻撃によって中東情勢が一層不安定になり、原油価格が高騰する可能性があること。もうひとつはドローンという攻撃形態が顕在化し、世界最大のドローン保有国である中国を隣国に持つ我が国の安全保障上の脆弱性が露呈したことである。

 ●日本直撃する中東原油
 原油輸入の約9割を中東に頼っている我が国としては、米国の対イラン攻撃にサウジアラビアやイスラエルが同調して、中東が大混乱に陥る可能性を予測しなければならない。
 このサウジの石油施設攻撃の3日前である11日、新たに環境相兼原子力防災担当相に就任した小泉進次郎氏は環境省で記者会見し、原子力発電に頼らない社会を目指すべきであるとの考え方を示した。彼の父親である小泉純一郎元首相も、全国で原発をゼロにすべきであるとの講演を行っており、15日も茨城県日立市の講演で、原発廃止について息子に期待すると述べた。
 しかし、近未来において風力や太陽光といった再生可能エネルギーだけで我が国の原子力発電分を賄えない事は明らかである。石油価格の高騰は火力発電コストをさらに増大させる。ぎりぎりの電力供給態勢が続く危険性については、昨年9月の北海道全域のブラックアウトや目下の千葉県停電により、人命を危険に晒す現状を見れば明らかである。
 さらに言えば、メディアが次期総理候補としても注目している小泉環境相だが、国家にとって最も重要な安全保障問題について主張したことを寡聞にして知らない。外見やパフォーマンスで次期総理候補を決めるポピュリズムに陥ってはなるまい。

 ●ドローン攻撃の怖さ
 2017年5月に中国海警局のドローンが尖閣列島を領空侵犯し、航空自衛隊が緊急発進(スクランブル)を行った。8月には中国国営中央テレビが、その映像を配信して尖閣が中国領であるとのプロパガンダに使用している。
 こうしたドローンをミサイルで撃墜しようとした場合、ドローンが1機約300ドルであるのに対して迎撃ミサイルの価格は、種類にもよるがパトリオット・ミサイルの場合1基340万ドル、スティンガーミサイルでも3万ドル代なので、コストは100倍から1万倍になる。おまけに雲霞のように多数のドローン攻撃を受けた場合には、ミサイル弾があっと言う間になくなってしまう厄介者である。
 中国の人民解放軍は小型無人機以外にも、朝鮮戦争時代の古い戦闘機であるJ-6を無人機に改良し、沿岸部の6基地に約200機、分散配備している。『三国志』の「赤壁の戦い」で諸葛孔明が藁人形に敵の矢を射させて消耗させる故事を熟知しているはずの中国である。その現代版として、無人機に貴重なミサイル弾を空費させた後、本格攻撃を考えているに違いない。
 さらには、中国製監視カメラによって収集された個人認証等のビッグデータが中国に握られれば、いずれは人工知能(AI)とドローンによって中国に批判的な個人への攻撃も潜在的には可能になる。こうした技術に遅れをとっている日本は、官民挙げてドローン管制用電波を妨害して無力化する等の対策を真剣に練る時代に来ている。