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2019.10.02 (水) 印刷する

建国70周年軍事パレードで示した中国の狙い 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 10月1日、中国で建国70周年の軍事パレードが過去最大規模で行われた。習近平政権の下での軍事パレードは、2015年の抗日戦争勝利70周年、2017年の軍創設90周年に継ぎ3回目である。江沢民、胡錦濤政権時代、軍事パレードはそれぞれ1回のみであったことから、習主席がいかに軍に力を入れているかが窺える。
 習近平は、事あるごとにアヘン戦争からの約100年を「屈辱の100年」とし、「軍事的に弱かったから列国から屈辱を受けたのだ」として凄まじい軍備拡張をしてきた。対するに日本は戦後、社会全体が軍事を忌避して「軍事大国にはならないこと」を政策としてきた。
 嘗て神宮外苑で行われていた中央観閲式は現在、朝霞の陸上自衛隊敷地内に押し込められている。日米同盟の支えがなければ、日本は中国の属国となる運命にあることは明らかである。

 ●多種多彩なミサイル群
 今回の軍事パレードで特に目を引いたのは、その多種多彩なミサイル群である。今回初めて姿を表した、米本土全域を射程に収める多弾頭大陸間弾道ミサイルDF(東風)-41に注目が集まっているが、パレードに出てきたミサイルには、これまで米露間の中距離核戦力(INF)全廃条約で禁止されてきた中距離陸上発射ミサイルで、しかもDF-17のように弾道ミサイル防衛システムでは迎撃が困難である極超音速かつ軌道修正可能なミサイルがあることに注目しなければならない。
 米国の中距離陸上発射ミサイルは、これまでINF全廃条約によってアジアには配備されていない。海軍艦や航空機搭載の中距離ミサイルはあるが、陸上発射型に比し、極めて高価である。米国がINF全廃条約から離脱したことで、中距離陸上発射ミサイルを今後アジアに配備し、中国の中距離ミサイルとの均衡を取らなければ、中国は容易に軍縮条約のテーブルには着かないであろう。
 中距離陸上ミサイルの配備先として太平洋には米国領のグアム島がある。しかし、中国の戦略的計算を複雑にするためには、アジア同盟国にも配備することが望ましい。
 その中でも日本は、米国にとって最も頼りとされ、また中距離陸上発射ミサイルを配備することによって、中国の圧倒的な中距離ミサイルを抑止することができるのである。
 さもなければ、東アジアの米同盟国は、中国の圧倒的なミサイル群によって戦わずして屈服せざるを得ない。

 ●AI兵器で米国に対抗
 今回は2015年末に習主席が発表した大規模軍改編後初めての本格的な軍事パレードであることから、軍改編によって誕生したサイバー・宇宙・電子戦を任務とする戦略支援軍と、新編の統合後方支援軍に加え、これまでの「第二砲兵」が名称を戦略ロケット軍として変えてデビューした。
 戦略ロケット軍を除いて、これらは派手に見えない働きをしている。それと共に、目に見えづらくて恐ろしいのが、人工知能(AI)兵器である。これらミサイルとAIという米国と非対称の兵器に秀でることによって、中国は米軍をアジアから駆逐しようとしているように思われる。