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2019.11.13 (水) 印刷する

「将来戦闘機」事業は飛び立てるのか 吉岡秀之(元航空自衛隊補給本部長)

 令和2年度概算要求にF-2戦闘機の後継機である「将来戦闘機の開発事業」が事項要求されている。事項要求とは、概算要求を財務省に出す際、個別政策の金額を明示せず項目だけ記載することである。どんな内容になるか、楽しみである。
 しかし、1つ大きな懸念がある。それは、航空自衛隊の輸送機C-2の主翼や後胴などを製造している製造分担企業(SUBARUや三菱重工業など)に関わる主契約企業(川崎重工業)の総利益が令和元年度からカットされているらしいことと関係する。総利益とは、一般管理及び販売費、利子及び利益の総称である。

 ●総利益カット求めた財務省
 平成29年10月、財務省の財政制度等審議会(財政審)において、「装備品の量産段階において、生産を複数の大手企業が分担しているケースがあり、製造分担企業の総利益も含めた総原価に、主契約企業の総利益率を乗じるため、(特にC-2では)高コスト構造になっている」が提起された。
 これ以降、財務省と防衛装備庁のやり取りがあったと想像するが、防衛装備庁が完全に折れた形で、令和元年7月に予定価格の算定基準の改正が行われた。これにより、製造分担企業から調達する分担品に関わる主契約企業の総利益(財政審資料によれば約7億円)が減額されることとなった。この決着に至る過程で、容易に納得しない川崎重工にC-2事業の中断をほのめかす等の圧力があったという噂を聞く。これが事実なら防衛力整備の在り方に係る重大問題でもある。
 もう少し説明すると、C-2などの装備品は原価計算方式により、予定価格が算定される。同価格は契約するための基準価格である。同方式では、直接材料費(部品代も含む)と材料を加工する加工費をベースに経費が積み上げられる。C-2の主翼や後胴部は部品として主契約企業が製造分担企業から購入し、それらの価格にはSUBARUや三菱重工などの総利益が含まれている。
 財務省から見ると、主契約企業である川崎重工も総利益を得ており、主契約企業の価格に二重に総利益(いわゆるダブルGCIP)が含まれているのはケシカランという理屈である。

 ●普遍性欠く削減の論理
 しかし、市販品であっても、下請部品には下請企業の利益(ダブルGCIPに相当)が含まれており、売り手の販売価格に仕入れ先の総利益が含まれているのは当たり前である。
 SUBARUなどの総利益に含まれる利益は部品製造に対する危険負担と報酬であって、川崎重工の総利益に含まれる利益は機体の取り纏めに対する危険負担と報酬である。両者の作業の性質は全く異なる。
 この処置について、防衛装備庁の本年7月の通知(改正)によれば「(C-2の製造は)共同による受注体制が存在するものとみなし、主契約者が当該製造請負契約を履行する一環として協力企業とされた事業者から調達する物品又は役務に係る対価のうち分担部位に係る部分については、主契約者に係る一般管理及び販売費率、利子率及び利益率を付加しないものとする」としている。なぜC-2だけなのか、また、従来と何が変わったのか、という疑問が湧く。今回の処置は全装備品に対して普遍性がなく、理解に苦しむ。

 ●防衛産業が存続の危機に
 本題に戻る。F-2戦闘機の量産では約1100社が参画した。将来戦闘機でも大手、中小問わず相当数の企業が参加すると思われる。この場合も、防衛省はC-2などと同様に共同受注体制が出来上がっているという判断をするのだろうか。
 前述の総利益カットが適用されるようであれば、主契約企業を進んで引き受ける会社が現れるだろうか。他方、違う判断をするなら、万人が納得できる理由を示す必要があろう。
 企業は株主や従業員に対して利益を上げる責任を持っている。国の組織とはこの点が大きく異なる。防衛装備庁には防衛産業を維持・強化するために、適正な利益を企業に保証するように強く求めたい。
 防衛装備庁が財務省と一緒になって不条理な調達価格低減に突き進むようであれば、防衛産業はアッという間に雲散霧消して、国の防衛は脆弱化してしまうであろう。