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2019.12.03 (火) 印刷する

連合30年、やるべきこと、やらなくていいこと 梅澤昇平(尚美学園大学名誉教授)

 今年は日本労働組合総連合会(連合)が結成されて30年の節目にあたる。ベルリンの壁崩壊と同じだ。日本社会党の解党は日本労働組合総評議会(総評)の解散、連合への移行が致命傷だったと聞く。それに共産主義の壁が崩壊したのだからダブル・パンチだったのだ。民社党も解党に追い込まれた。それは小選挙区制度導入と、労働組合の大勢がそれを指向したことと、やはり全日本労働総同盟(同盟)解散の影響が大きかった。

 ●官公労が主導権握る現状
 連合は、労働戦線の「統一」という大合唱の下でできたが、今考えるとどうだったか。確かに結成の原則には、まず「共産党の排除」があった。政策制度要求では、自衛隊、日米安保条約、日韓基本条約、原子力の平和利用などの維持が合意された。
 憲法については護憲の立場だったが、その後、憲法論議はOKとなった。しかし組織的には「穴」があいてしまった。というのも、当初は民間労働組合の結集だったのが、日本官公庁労働組合協議会(官公労)の加盟を許してしまったことだ。トロイの木馬じゃないけれど、大人しく入ってきた官公労にいま主導権が奪われつつあるのではないか。
 全国の地方連合を見ると、会長か事務局長かは地方自治体職員らによる自治労が握っているところが圧倒的に多い。連合内における政治的影響力も、流通や外食など約2300の労組が加盟する民間最大の170万人を超えるUAゼンセンにくらべ、官公労最大の80万人の自治労の影響力は10倍を超えるとも聞く。

 ●共産党に振り回される
 庇を貸して母屋を乗っ取られたか。トロイの木馬戦術にはまったか、とさえ思う。選挙の方針でも、連合本部は「共産党排除」を決めても、地方連合は、共産党との共闘にだんだん抵抗力がなくなってきたのではないかと危惧する。
 また改憲論議など本気で考えているのか。地方連合レベルで見ると、共産党と共産党ダミーの「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」との提携に振り回されているのではないか。
 共産党と「市民連合」との参院選での13項目合意はひどいものだ。改憲論議はさせない。安保法制廃止と辺野古基地建設反対を通じた日米安保体制の空洞化、防衛予算削減、原発再稼働反対、消費税引き上げ反対など無責任なスローガンばかりだ。こんなものは蹴飛ばしてほしい。そうでないと連合結成の原点はどこへ行ったかとなる。

 ●労組本来の団結力はどこへ
 過日、旧民社系「同盟」最後の書記長として連合結成に一役かった田中良一氏が逝去した。彼は、連合ができてからも「政治に足を突っ込み過ぎず、政党支持は産別自決が原点だ」と語っていた。
 「連合」と「同盟」は違う。ASEANは東南アジア諸国「連合」で緩やかな共同体だ。日米安保体制は「同盟」だ。「同盟」とは、共通の利害、目的が明確で、考え方の一致が不可欠となる。かつての「同盟」はそうだった。「共通の目的、同一の行動」が軸だった。ゆるやかな「連合」では、呉越同舟とまではいわないが、団結したパワーは出ない。30年たっても、共通する教育活動はない。同志にはなれない。同志になれないなら、政治活動は切り離せという田中氏の説が効いてくるはずだ。
 労働組合は「絶滅危惧種」だという労働運動のOBもいる。しかし労働運動は民主主義社会に不可欠の存在だと思う。筆者も、赴任した大学で経営陣の横暴を跳ね返すため仲間と労働組合なるものを作ったが、出来たら様相は一変した。いまも過労死だとか過労自殺のニュースを聞くたび、組合はなかったのか、なぜ組合に駆け込まなかったのか、と無念に思う。
 働き方改革とか労働法制の見直しは最低限の話。労働組合がしっかりして欲しい。連合のやるべきことは沢山ある。