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2020.02.17 (月) 印刷する

新型肺炎で北朝鮮でも40人死亡か 西岡力(国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授)

 軍事情報に強い韓国のジャーナリスト金泌在氏が2月6日、自身が主宰するネットテレビで伝えたところによると「北朝鮮で新型コロナウイルスによる肺炎のため40人が死亡した」という。北朝鮮当局はウイルスの感染者はいないと発表しているが、それは信じられない。韓国では複数の脱北者らが北朝鮮内の感染者数や死亡者数をそれぞれのルートで北の内部からつかみ、競って公表している。
 2月16日現在、北朝鮮との国境に面した中国の遼寧省では感染者が121人、死亡者は1人、吉林省ではそれぞれ89人、1人と発表されている。北朝鮮は1月末に中国との人とモノの出入りは全面禁止にしている。しかし、その時点で既に国境を通じてウイルスが流入していたことは間違いない。

 ●党幹部らにも感染者の噂
 北朝鮮の人民は極寒の中、栄養状態が悪く抵抗力も低いため発病しやすく、重篤に陥る確率が高いはずだ。一般人民向けの病院の医療環境は最悪で、患者は市場で高価な薬を自分で買い求めなければならない。麻酔ができないので盲腸手術も手足を縛ってそのまま行う有様だと聞く。
国境封鎖の時点で多数の中国人観光客が北朝鮮内に滞在していた。観光客を管理するのは国家保衛省や朝鮮労働党の統一戦線部などの仕事だから、治安機関や党の幹部階級にも感染者が出ていると推定される。
 国境封鎖の結果、チャンマダン(市場)の物価は連日上がっている(※1)。在庫はあるが、値上がり期待から買い占め、売り惜しみが起きている。人民保安省がコメやトウモロコシの高値売買を取り締まっている。輸入頼みのガソリンと食用油、小麦粉なども高騰し続けている。市場の物価が暴騰し、社会不安が高まっている。このままでは大量の餓死者が出るかもしれない。

 ●金正恩守るための国境閉鎖
 また、厳しい国連制裁の結果、金正恩の個人資金である党39号室資金は既に昨年の段階で大幅に減っていた。中国共産党が補助金を出して送り込んでいた中国人観光客の落とす外貨が頼みの綱だったが、国境封鎖でそれさえも遮断してしまった。
 北朝鮮が恐れているのは人民の健康被害ではない。ただ金正恩の健康を守ることだけを考えて国境封鎖を断行したのだ。ウイルスは健康な成人なら感染しても重篤にはならないが、肺に疾患がある者、糖尿病患者などが感染すると死亡することもあるという。金正恩はすぐに息切れすることが目撃されており、肺疾患の疑いがある。糖尿病もある。心臓、腎臓も悪いと伝えられている。
 ウイルスは目に見えないから、金正恩にとってこれほど怖いものはない。しかし、独裁者の健康を守るため、国境封鎖を続ければ幹部の生活困窮が進み、人民の中では餓死者が多数出てくる事態も予想される。北朝鮮内部では、6月まで国境封鎖が続いたら食糧暴動が起こると囁かれているという。39号室資金の枯渇や金正恩の健康不安に加え、新型コロナウイルスは、政権の不安定状況をより深化させている。


<注>
(※1)チャンマダン(市場)の物価情報(自由北韓放送調べ)
1月20日と2月10日の比較(単位北朝鮮ウォン)