公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.02.17 (月) 印刷する

この時期に尖閣侵犯繰り返す中国の狙い 島田洋一(福井県立大学教授)

 2月16日、尖閣諸島周辺の接続水域で中国海警局の船2隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認した。巡視船は、領海に近づかないよう警告したが、尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは15日連続だという。
 この間、新型コロナウイルスの感染は拡大し、その防止に向けた日本の支援に対してネット上では中国人の感謝の書き込みが少なからず見られた。また、2月末には外交担当トップの楊潔篪中国共産党政治局員が、習近平主席の国賓来日に向けた事前調整のため、来日を予定している。
 日本では「こうした状況にも拘わらず、なぜ中国は尖閣周辺での挑発行為をやめないのか」などと反発する声が聞かれる。しかし、これを「意外」とか「心外」とか受け止めるなら、中国共産党政権(以下、中共)への認識不足と言われても仕方がないだろう。

 ●止めるとしたら恩売る戦術
 一つのエピソードを紹介したい。数年前、国家基本問題研究所の同僚と共にインドでシブシャンカル・メノン元首相補佐官(国家安全保障担当)と会った際のことである。
 われわれが、「最近、尖閣周辺では中共の公船による領域侵犯活動がレベルアップしている」と述べたところ、メノン氏は「日本もようやく分かりましたか」と応じ、「インドは数十年にわたって中共の領土侵犯に絶え間なくさらされてきた。どんな時でもじわじわと侵出をやめないのが中共である。日本もその状態が延々と続くと見ておかねばならない」と語った。
 その通りだろう。仮に習近平来日があるとして、その前後にしばらく侵犯行為が止まるとしたら、それは「恩を売る」戦術に過ぎないだろう。遠からずノーマルな状態、すなわち継続的な領域浸食に回帰するはずだ。

 ●「日中新時代」幻想から覚めよ
 それどころか、より危険な方向に行くかも知れない。中国国内では現政権に対する怒りの声が高まっており、習近平失脚もありうる状況になってきた。不満を外にそらすため、尖閣への冒険的な軍事行動に出る可能性もある。甘い「日中新時代」幻想にひたるのではなく、尖閣周辺の防備をしっかり固めねばならない。