公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2020.02.17 (月) 印刷する

裏目に出ている一帯一路 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 新型コロナウイルスの世界的拡散は中国の「一帯一路」政策とも関係している。一帯一路政策は、労働力も現地の労働者を使って現地の経済を潤すことはせず、中国本土から囚人まで現地に派遣する等の方法をとっている。このため春節等で一度中国本土に帰った労働者達がウイルスを現地に持ち帰って、感染を拡大する結果にも陥っているという。

 ●一帯一路の拠点にウイルスは拡散
 12日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)に掲載された新型コロナウイルスの蔓延を示す世界地図を見ると、現在カンボジアは患者数が1名のみである。
 カンボジアは各国が拒絶した大型クルーズ船の入港を引き受けたが、そのシアヌークビル港の近郊には中国の経済特区ができていて、年間100万人の中国人が中国本土を行き来している。6日に北京の習近平主席を表敬したフン・セン首相は、中国で働いているカンボジア人労働者に「中国に留まれ」と指示を出している。カンボジア人の感染者は今後増加の一途を辿るであろう。患者数は、その国の情報公開度によると考えた方が良い。
 この図ではラオス、ミャンマー、バングラデッシュ、パキスタンでは患者数が示されていないが、いずれも一帯一路の投資が活発であり、相当数の感染者が発生している可能性がある。「債務の罠」で世界中に知られたハンバントタ港を擁するスリランカが患者数1名となっているが実態はどうなのだろうか。
 さらに、ニューヨーク・タイムズ掲載の地図にはインド洋やアフリカの諸国が出ていないが、中国が活発な資金投入を行っているモルディブ、セーシェル、ジブチ、ケニヤ、タンザニアも、これからウイルス患者は増えると思われる。
 2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)拡散時、中国は、その原因をコウモリやセンザンコウといった野生生物を食べる習慣に起因すると解明して、これらを食べることを禁止した。それにも拘らず、今回全く同じ原因で新型コロナウイルスを世界に蔓延させた。初動対応も遅れも蔓延の大きな理由だ。14日に王毅外相は「中国には何も過失はない」と開き直った発言をしている。これぞ中華思想の何物でもない。

 ●日中友好を演じる中国官制メディア
 13日の中国共産党傘下の英字紙チャイナ・デイリー(電子版)では「ウイルスとの戦いで日中が緊密になっている」という記事が掲載された。12日の環球網(英語版)にも「人と人の交流はグローバルな相互信頼を強化する」という見出しの下、日本人女性が「武漢 中国 頑張れ」と募金箱を持っている写真の記事を載っていた。
 一方で13日には4隻の中国公船が尖閣諸島の領海を侵犯している。これは一体どういうことなのか。
 かつてインドの首相補佐官と中国の不可解な二面性について話をしたことがあるが、彼からは「中国は友好関係にあろうがなかろうが侵略して来る国だ、今さら何を行っているのか」と逆に問い訊された。確かに1962年、中印は極めて友好的関係にあったが、キューバ危機で米ソが忙殺されているドサクサに紛れて中国はインドに侵攻した。
 官製メディアが日中友好関係を演出しようがしまいが、中国は戦機と見れば躊躇なく尖閣諸島を奪取するであろう。騙されてはいけない。