公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.03.23 (月) 印刷する

「感染者ゼロ」のまやかし 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 中国政府の発表によれば、このところ武漢ウイルスの感染患者数が激減し、ついに3月18日には湖北省で新規感染者はゼロになったという。この数値を信じる人は少ないと思うが、どうしてこのような結果となるのか、そのからくりを筆者の知人に送られてきた中国国内の医師の怒りのメールによって披露したい。

 ●「陽性」基準を次々と変更
 日本を含め、世界ではPCR(Polymerase Chain Reaction)検査で陽性と出れば感染者としてカウントされる。少なくとも2月20日までは中国もそうであった。
 ところが、2月20日の段階で、国家防止指揮部の指示により、NAT(Nucleic acid Amplification Test)と呼ばれる核酸増幅法を利用した遺伝子検査法で陽性と判定されなければ感染者としなくなったという。新規定の導入以降、感染者数は激減した。
 そして国家防止指揮部の最新の要求によれば、NATで陽性と出た患者でも、臨床の状態とCT検査を合わせた3点セットで診断が揃わないと、新型コロナウイルスの患者とは見なさないとしたのだという。
 例えて言えば、自衛官採用試験に合格した人を自衛官と認めていたこれまでの基準に加え、ある時点から「体力測定1級を保持する自衛官でなければ自衛官と呼称しない」とし、さらに暫くして「それに加え、水泳1級を保有していないと自衛官として認めない」と新しい基準を設けるようなものである。体力・水泳共に1級の自衛官などは限りなくゼロに近い。

 ●命より体制の維持が優先
 医師の怒りは続く。「これは患者数を大きく削減しようというわが国の政府の措置だ。再び患者数を減らそうということだ。それで湖北省の患者数が激減した。湖北省には陽性反応を示したものの、いまだ重篤な肺炎には至っていない患者も大勢いる。これ(筆者注:新規定による感染の判断)が続くと、医療現場が最も求める感染者と非感染者を区分けする行為ができにくくなる。その結果、大量の感染者を出すことになるだろう」と。
 中国政府の意図は、たとえ感染者が増加したとしても経済活動を再開し、共産党の指導を正当化する成長回復につなげる意図なのであろう。国民の命よりも共産党の一党独裁体制維持が優先されるのだ。