公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.04.08 (水) 印刷する

日本はWHO改革阻むつもりか 島田洋一(福井県立大学教授)

 武漢ウイルスをめぐる中国共産党政権(以下中共)の情報隠しや誤誘導に事実上協力した世界保健機関(WHO)とりわけテドロス事務局長(エチオピア出身)への批判が高まっている。
 問題は、その批判をどう具体的行動につなげるかである。この点、アメリカと日本は対照的だ。アメリカでは、テドロス辞任を含むWHOの機構改革、再発防止の徹底がなされない限り、来年度は拠出金を大幅減額するとの意見が議会有力者から次々出ている。共和党主流派に近いウォールストリート・ジャーナルなど米有力紙も同様の主張を掲げている。

 ●米国は供出金減額に動く
 議会での急先鋒はリック・スコット上院議員(共和党)で、同氏は所属する国土安全・統治問題委員会での「WHO追及公聴会」の開催も求めている。やはり共和党のマルコ・ルビオ、テッド・クルーズ両上院議員らも、強く賛同の意を示し、テドロス解任は当然との立場を打ち出している。
 トランプ政権もこれら議員と同調し、来年度はWHOへの拠出金を半額以下に減らすとの予算案を公にしている。具体的には、今年度米議会が認めた1億2300万ドルから5800万ドルに減額するというものである。
 スコット議員は、WHOが当初、中共に寄り添う形で、「人から人への感染はない」「旅行制限の必要はない」など誤情報を流したことが感染拡大を招いたとして、2月段階でWHOが自主的に内部調査を行うよう求めていた。これにWHO側が応じないため、拠出金減額の主張に至ったわけである。段階を踏み、一貫性を持った対応と言えよう。

 ●焼け太り助長する日本
 翻って日本はどうか。
 政府、議会ともアメリカとは逆方向に動いていると言わざるを得ない。3月19日の参院政府開発援助(ODA)特別委員会で茂木敏充外相は、武漢ウイルスを巡る国際貢献の一環としてWHOなど複数の国際機関に総額約150億円を拠出すると語った。
 同日の菅義偉官房長官の記者会見によると、WHO向けが最大で50億円になるという(以下、ユニセフ31.8億円、国連難民高等弁務官事務所26.3億円などやはり国連関連が続く)。テドロス氏の責任を問うような何の条件も付けていない。
 アメリカでは、拠出金減額という形でWHOに改革を迫る動きが具体化してきた。ところが、その分を安易に穴埋めする日本のような国がある限り、WHOもテドロス氏も一向に痛痒を感じない。焼け太りを助長するものだと言われても仕方ないだろう。
 政府当局は、「中国の動向をにらみつつ、WHOへの影響力を強める」ための拠出増だと「背後の狙い」を説明していると聞く。省益第一で宥和派の官僚がよく使う論理である。アメリカでも国務省には同様の姿勢が見られる。
 日米の違いは結局、政治的リーダーシップの違いということになろう。