公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2020.04.30 (木) 印刷する

橋下徹氏は関電社外取締役に適任か 島田洋一(福井県立大学教授)

 4月28日、関西電力が筆頭株主の大阪市から提案を受けていた橋下徹元市長の社外取締役起用を、その政治的言動などから「公益性が高い当社の取締役に就任することは適切ではない」として拒否したと発表した。
 関電の役員らが福井県高浜町の元助役(故人)から金品を受領した問題を受け、松井一郎大阪市長が「関電の経営体質をよく知っていて、コンプライアンス(法令順守)にも詳しい。関電の問題点を一番よく分かっている」と橋下氏の起用を求めていた。松井氏は、関電が応じない場合、株主代表訴訟に踏み切る可能性を示唆している。
 橋下氏の発信力と突破力には定評がある。関電の膿を出し切るにおいて適任と松井氏は考えたのだろう。しかし橋下氏が、エネルギー問題、特に原子力発電に関してふさわしい見識を有しているかとなると大いに疑問がある。

 ●鳩山氏並みに発言が二転三転
 橋下氏の言動を振り返ってみよう。橋下氏は東日本大震災後、2011年10月までは大阪府知事として、同12月以降は大阪市長の立場で「安全性を誰も確認していないのに原発再稼働など許されない」「こんなことを許すなら民主党政権を倒さねばならない」と強い口調で原発再稼働反対の見得を切っていた。
 ところが2012年、酷暑の大阪で電力不足が現実化した途端、一転して福井県の原発をすぐに再稼働して大阪に電力を供給せよと叫び、夏の電力消費のピークが過ぎるや、今度は、もう必要ないので原発を止めよとの主張に転じた。
 原発の再稼働には膨大な政治エネルギーと準備作業がいる。一消費地の首長の思い付きで簡単に動かしたり止めたりできるものではない。自治省出身で地味な西川一誠福井県知事(当時)が珍しく怒りをあらわにしていたのを覚えている。
 沖縄の米軍普天間基地移転に関し、「最低でも県外」から「抑止力について学んだ。辺野古しかない」を経て、再び「辺野古はダメ」に至った鳩山由紀夫元首相と同レベルのふらつきだと橋下氏に批判の声が上がったのも無理はない。

 ●「踊らされていた」と責任転嫁
 橋下氏は後に、「最大の論点は原発がなくても電力は足りるのか、足りないのかだった」と当時を振り返り、次のようにあっけらかんと語っている。
 「そしたら『大阪府市エネルギー戦略会議』のメンバーであり、原発なしでも電力は足りると言い続けていた飯田哲也さんが(政府の「需給検証委員会」で)大惨敗した。結局、原発がなければ電力は全く足りないという結論だった。僕にしてみれば『ハアーーっ?』て感じ。飯田さんも元通産官僚の古賀茂明さんも、原発が動かなくても電力は足りるから、ここで原発を再稼働させなくてもいいと、ずっと僕に言い続けてきて、僕はそれを前提に原発再稼働阻止の実行プロセスを構築していたのに。少しくらい足りないという程度だったら踏ん張っていたけど、全く足りないという結果だった」(橋下徹「あのとき僕が原発『再稼働』を容認した理由」PRESIDENT Online 2016年10月26日)
 常に確信ありげに戦闘的言辞を弄する橋下氏だが、その実、一時、再稼働容認に転じたのは軽佻浮薄な一部評論家に踊らされていただけと言うのである。「ハアーーっ?」はこちらのセリフだろう。
 あくまで橋下氏を関電社外取締役に推すというなら、こうした橋下氏の言動をどう考えるのかも、松井氏に語ってもらわねばならない。