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2020.05.07 (木) 印刷する

やはり憲法に緊急事態条項が必要だ 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)

 武漢ウィルスによる感染症の拡大により、政府は4月7日、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下特措法)32条1項により、期間を5月6日まで、適用区域を埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県とする「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」を出し、4月16日には適用区域を全都道府県とした。しかし、依然として発症が収まらず、5月4日、期間を5月31日まで延長した。
 この緊急事態宣言は、前の「ろんだん」(4月6日付)で述べたやうに、総理大臣が都道府県知事などに必要な指示をし、都道府県知事は関係市区町村長などに必要な指示をするだけ(特措法33条)で、強制が可能なのは、都道府県知事が臨時の医療施設を開設するにあたつて、土地建物や物資を所有者や占有者が、正当な理由なしに同意しないときだけである(特措法49条)。

 ●罰則なしの説得・指示に限界
 つまり、ほとんどの場合、都道府県知事や市町村長は、住民に対する協力の要請や、施設や興行場の責任者に対する休業等の要請や指示はできるが(特措法45条)、指示に従はないからといつて罰則は科せない。
 そこで、千葉県や大阪府などでは、何軒ものパチンコ店が休業要請に従はないといふことで、店名を公表し、さらに個別に訪問して説得して、やつと休業させたやうであるが、その際、多くの周辺住民が休業に応じない店舗に対して、怒号や罵声を投げつけるといつた混乱が見られたといふ。
 協力要請、説得、指示などの段階を踏むことは当然であるが、過度の押し付けには若干の疑問がある。
 そもそも休業や閉鎖などは、買物や電車に乗車するときなどは列を守るといつた道徳的要請とは異なり、財産権や人格権などの基本的人権の侵害となる可能性がある。罰則なしの説得や指示だけでは無理がある。

 ●立憲主義に基づく法改正とは
 そこで、4月28日、西村康稔経済再生担当大臣は、店名を公表して休業指示を行つたにもかかはらず営業を続ける店舗があることについて、罰則規定を設ける法改正の可能性を示唆した。これは当然のことである。しかし、この罰則規定の根拠が憲法12条の公共の福祉だけで十分であらうか。
 私は、パチンコ店に対する休業要請や説得について、あまり強制性のない緊急事態宣言を認めた法改正にさへ批判、反対した学者や評論家が、何も発言しないことに疑問を抱く。彼らは、法的根拠なしの政府の要請や説得については問題を感じないのだらふか。
 私はやはり、このやうな事態を避けるためには、憲法上の緊急事態条項が必要であると考へる。法的根拠をもつた上で、協力要請、説得、指示などの段階を踏んで、最後には強制できるとすることが立憲主義に基づいた法治国家たる所以であると思ふ。