公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.05.08 (金) 印刷する

爆発的感染防いだ日本の文化 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 緊急事態宣言が5月31日まで延長されたが、新型コロナウイルスの新規感染者の数は減少に転じて、一部の県では営業や学校を再開する所も出ている。既に「勝負あった」の感がする。
 欧米に比し爆発的感染が防げたのは何故か? この点について外国のメディアは3月の時点から着目してきた。例えば米フォックスニュースは3月24日に「何故、日本はコロナウイルスの大量爆発が避けられているのか」とする分析報道を行っている。
 4月30日の産経新聞「正論」欄で動物行動研究家・エッセイストの竹内久美子氏は「新型肺炎で分かった日本人の美徳」と題して、その一因を日本で結核予防のワクチンBCGの接種がかなり広い年代でなされていることを挙げている。私は、それ以外にも日本の文化習慣が爆発的感染を防げた一因であるように思われる。

 ●一定の距離保つお辞儀の習慣
 日本人には握手の習慣がなく、一定の距離を保つお辞儀で挨拶する習慣がある。そして欧米人のように、感情を直裁に表すハグやキスの習慣がない。したがって日本文化には元来、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が備わっていると言える。
 殆ど罰則規定のない現緊急事態宣言に、一致団結して国民が従うという点も日本人に備わっている美徳であろう。
 東日本大震災の時も、救援に向かった米軍兵士に対し「自分たちよりももっと困っている人達がいるので、その人達を助けてあげて」と救助を拒んだ人達が多くいた。弱者に対する思い遣りの伝統も武士道に由来する日本の文化である。
 また日本人は欧米人のように人前で良く喋って自己主張することを好まない。

 ●もともと高い公衆衛生意識
 欧米では、靴を履いたまま室内に上がり込むのが通例であるのに対し、日本では玄関で履物を脱いで外部のバイキンを室内に持ち込まない習慣がある。
 筆者は海外に約10年生活して常に違和感を覚えたのは、欧米人が食事で手を洗わずにパンを掴んでちぎり、口に入れることであった。箸を使う日本の習慣は、少なくとも感染抑制に役立ったものと思われる。
 マスクをする習慣も大きい。筆者は新型インフルエンザが世界中に流行していた2009年にフランスの陸軍士官学校で行われた国際会議に参加したが、日本では殆どの人がマスクをしていたのに、フランス人が全くマスクをしていないのに驚いたことがある。アメリカでもマスクをする習慣がない。
 爆発的感染を防いだ理由として伝統的な日本人の知恵を無視することができない。

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