公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2020.05.11 (月) 印刷する

将来投資へ第2次補正編成急げ 大岩雄次郎(国基研企画委員兼研究員)

 新型コロナウイルスとの戦いは、感染の加速度的な増加を抑え込む局面から、感染収束を見据えた経済回復への対応が求められる局面にさしかかった様子である。とはいえまだ入り口に過ぎず、感染の収束と経済回復を確かなものにするためにも、いまが正念場である。
 世界経済フォーラム(WEF)によれば、深刻な感染症および比較的深刻な感染症にかかると、世界全体の年間コストは約5700億ドル(約60兆円、世界の所得の0.7%)で、気候変動に掛かるコストに匹敵すると言われる。

 ●感染収束とともに経済回復も
 新型コロナウイルスの感染規模は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群コロナウィルス(MERS)に比べて大きく、経済的損失はリーマンショックを上回る様相を呈している。
 世界各国が渡航制限、移動制限、店舗閉鎖、イベント中止など経済活動の大幅な制限に踏み切ったのは、そうしなければ経済の損失より、感染拡大による損失のほうが大きいと判断したためである。その上でなすべき「コロナ経済対策」は、経済活動の収縮による損失を可能な限り小さくすることである。
 失業者数と自殺者数には強い相関関係がある。2019年の自殺者は依然2万169人に上るが、その内、経済・生活問題を原因とした自殺者は3395人である。今後、景気の急速な悪化によって、失業者、自殺者が急増するリスクがあるが、これを防止することは経済対策の重要な目的である。
 コロナ感染拡大による死者を減らすことが出来たとしても、経済的な困窮に起因する自殺者がそれ以上に増えることになれば、元も子もなくなる。

 ●「真水」不十分な緊急対策
 事業規模117兆円で世界最大級という触込みの緊急経済対策も、新たな財政資金の投入、いわゆる「真水」部分は27.5兆円に止まる。このうち約13兆円が「所得制限なしの一律10万円の現金給付」に充てられた。一方、医療提供体制の整備や治療薬開発などには7000億円弱、収入が落ち込んだ中小企業・自営業者への給付は2.3兆円にすぎない。
 国土交通省の「Go to キャンペーン」、法務省の「外国人材の受入れ支援体制強化」、文部科学省の「日本留学試験の円滑な実施」、経済産業省の「コンテンツグローバル需要創出促進事業」(仮称)、環境省の「国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進」など最優先すべき感染対策とは言い難いものも多く盛り込まれている。
 最も緊急性が高いのは中小企業・自営業者への給付である。政府も遅ればせながら対策の拡充に動いているが、依然規模が小さく、スピード感もない。
 一部で支給が始まった事業の持続化給付金や家賃補助は、雇用削減を防止する効果を持つ。固定費が支払えなくなった企業が人件費などを削減し始めると、経済活動はさらなる失業や賃金下落を招く悪循環に陥る。デフレ防止対策として意味があることを理解しておく必要がある。

 ●「異次元」の経済対策が必要
 しかし、持続化給付額の判断基準である「前年同月比で50%の売上減」には問題が多い。つまり、業種・規模によって採算性(=損益分岐点比率)が大きく違うため、一律の給付金では不十分だからだ。損益分岐点比率が高い飲食サービスや宿泊、小売業では、雇用調整をせざるを得ない可能性が高い。休業を前提とした場合、最大 200 万円という給付金の金額も少なすぎる。
 また家賃補助については、全国一律で6カ月間、3分の2を補助するという方向で検討されている。支援対象は、売り上げが前年比で50%以上減ったか、3カ月平均で3割以上減った事業者である。
 財務省「法人企業統計年報」(2018 年度)によれば、企業の不動産賃料(家賃)の合計は約 20 兆円と見込まれる。今回、中小・零細企業を対象とした家賃補助であることを考えると、資本金 1 億円未満の企業の賃料割合は約26%であるが、従業員比率では全体の約65%を占める。家賃補助が倒産を減らし、雇用を守る上で極めて重要であることがわかる。十二分の対策が為されてしかるべきである。
 感染症との戦いが長期になることを念頭に、所得・雇用を守るための財政支出は「日本社会の将来への投資」という認識に立つ「異次元」の対策が求められる。第2次補正予算案の編成が急がれるゆえんだ。