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2020.06.01 (月) 印刷する

安倍首相は対中包囲網でイニシアチブを 有元隆志(産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 トランプ米大統領は世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスをめぐって中国寄りの対応をとったとして、WHOからの脱退を宣言した。日本政府は残留するが、トランプ支持の保守派にはWHOだけでなく「国連不要論」も根強い。米国が「一国主義」、「孤立主義」に向かわないように働きかけるのも安倍晋三首相にとっては重要な役目である。同時に「中国封じ込め」のためには、国際機関が中国依存にならないようにしなければならない。日本が果たすべき役割は大きい。

 ●中国問題をG7の中心議題に
 安倍首相は5月25日の記者会見で「我が国のこれまでの経験も生かしながら、世界の感染症対策、コロナの時代の国際秩序を作り上げていく上で、強いリーダーシップを発揮していく。それが、国際社会における日本の責任であると考えます」と強調した。ぜひその言葉を実行してほしい。
 9月まで延期となった先進7カ国(G7)首脳会議は、9回目の出席となる安倍首相にとってこれまでで最も重要な会合となるだろう。今後の世界秩序について首脳たちが直接会って話し合う最初の機会となるからだ。そして最大のテーマは中国だ。
 欧州は中国との連携を重視し、G7で中国問題を正面から取り上げることには積極的ではなかった。安倍首相は議長国であった平成28(2016)年5月の伊勢志摩サミットを利用し、8年ぶりにアジアで開かれるサミットであり、東シナ海、南シナ海の現状についてしっかりとした話をしたいと切り出した。その結果、首脳宣言では「東シナ海・南シナ海の状況を懸念」することが明記された。それでも欧州による中国重視には変化がなかった。
 米国が議長国の今回は、中国・武漢から広まった新型コロナウイルスにより欧米で多くの死者が出たうえ、習近平政権が香港への国家安全法適用を決めたことで、状況は大きく変わった。安倍首相は中国批判を強めるトランプ大統領とともに、「力による現状変更は認められない」という大原則をG7でまとめるべきだろう。それは領土であり、人権も含まれる。

 ●激変期は平時より原則が必要
 日本自身の覚悟も問われる。日本政府は今年春に予定されていた習近平国家主席の国賓訪日にこだわっていた。政府高官は国賓にこだわる理由について「中国はトップと話さないと物事は進まない。主席が訪日するときは国賓以外にない」と説明していた。訪問は延期となったが再調整する考えだ。新型コロナウイルスが終息せず、かつ「香港抑圧法」ともいうべき国家安全法の適用が決まったなかで、国賓として迎える環境ではない。「国賓呪縛」から解き放たれるべきだ。
 故・岡崎久彦氏は、2001年の米中枢同時テロから1年後の産経新聞のインタビューに「激変期には、平時よりプリンシプル(原則)が必要だ。日米同盟堅持というプリンシプルを守らないとどっちに転んでも危ない」と語った。いまも通じる発言である。