公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • 憲法上の裏付け欠く自衛隊では士気上がらず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
2020.06.01 (月) 印刷する

憲法上の裏付け欠く自衛隊では士気上がらず 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 5月28日の衆議院憲法審査会では、野党側の反対により、憲法改正に不可欠な国民投票法改正案の今国会成立が困難な見通しとなった。こうした状況では、憲法上裏付けのない自衛隊員の士気は上がらない。自分の約35年間の自衛官生活を振り返って述べてみたい。

 ●最低だった1973年の違憲判決
 昭和48(1973)年9月、いわゆる長沼ナイキ基地訴訟で札幌地方裁判所が「自衛隊は憲法第9条が禁ずる陸海空軍に該当し違憲である」との判決を下した。当時の山中貞則防衛庁長官は、隊員に対して「誇りを持て」とか「自衛隊は揺るぎない存在だ」とか訓示したが、おざなり、かつありきたりの内容で迫力に乏しかった。
 当時、筆者は2等海尉で防衛庁の海上幕僚監部に勤務していたが、防衛庁職員・自衛隊員の士気低下は尋常ではなかった。防衛大学校進学を勧めてくれた両親からも「自衛隊を辞めて警察官にでもなったら?」と言われ、大変ショックを受けた記憶がある。
 当然、隊員の募集にも判決結果は響き、地方連絡部に勤務する同期生が、繁華街でブラブラしている若者にポン引きまがいの勧誘をしていた。
 募集難による人員不足から、当時行われた海将会議では「衣を小さくしよう(任務を減らそう)」とか「隊員の処遇を改善しよう」とか本筋を外れた意見も多く見られた。隊員の私服外出が許可されるようになったのも、この頃からである。厳しいことを要求すると隊員は直ぐ辞めてしまうので、部隊の精強さを保つことが困難になってきたのである。

 ●なぜ観閲式は神宮でできないのか 
 自治体によっては自衛官であるが故に住民登録の受付を拒否する所もあったし、組合員の女子が自衛官に嫁ぐことを拒否する決議をした労働組合もあった。当時、独身であった筆者は「何クソ、今に見ておれ」と憤懣やる方なかったことを覚えている。
 当時の東京都は美濃部亮吉知事時代で、それまで神宮外苑で行っていた自衛隊の観閲式を埼玉県朝霞の陸上自衛隊基地内で行うよう要請した。これに対し「美濃部知事の主張には法的根拠がないから一戦交えるべきだ」と主張したのは当時の小田村四郎経理局長一人だけで、あとの局長,次官、長官は都知事の要請に従ってしまい、今日に到るまで観閲式の場所は朝霞のままである。
 憲法改正に消極的な野党は「自衛隊は既に国民から認知されているのだから憲法改正の必要はない」と主張するが、それは違う。憲法上認知されれば、目に見えないところで自衛隊員の士気は向上してくるのである。