公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

  • HOME
  • 国基研ろんだん
  • エースを国際機関トップに送り込んでこそ 有村治子(参議院議員・全国比例区選出、元 女性活躍担当相)
2020.09.01 (火) 印刷する

エースを国際機関トップに送り込んでこそ 有村治子(参議院議員・全国比例区選出、元 女性活躍担当相)

中国発の新型コロナウイルスが猛威を振るう中でも、挑発的な姿勢を崩さない中国の狙いは、近隣の国々と係争する国境や権益の拡張にとどまらない。並行して進んでいるのは、戦後をリードしてきた日米欧による世界秩序への挑戦であり、その布陣としての国連機関への急激な浸透である。

中国が初めて国連専門機関トップのポストを手に入れたのは2007年である。香港出身のマーガレット・チャン氏が世界保健機関(WHO)の事務局長に就任して以来、国際機関における権益拡大の味をしめた中国は、この十数年間で、国際機関のトップ人事を急速な勢いで牛耳ってきた。

国際世論や世界市場の技術標準を形成するためには、国際組織のトップ人事を押さえることが要路であり、この人事を獲るために多数派工作を実行すること自体が覇権国家への道だと、中国は確信しているに違いない。

中国は3分の1を独占

国の発展の多くを中国に依拠するエチオピア出身のテドロス・アダノム事務局長率いるWHOは、中国の傀儡機関に成り下がったかのような失態を重ね、国際的な信用を著しく棄損した。しかし、WHOを舞台に露呈した中国のあからさまな影響力行使は、実は氷山の一角にすぎない。

国連にはWHOをはじめとして15の専門機関がある。世界銀行のトップを擁する米国をはじめ、各国が一つずつ組織のトップを分け合う中で、中国だけが何と4つもの国際機関のトップを牛耳っているのだ。しかもこの4つの国際組織は、見事なまでに中国の国益に合致した分野ばかりである。

国連専門機関のおよそ3分の1のトップをたった1国が、しかも共産党一党支配の独裁国が占めることは、世界にとって健全なことではない。政治は人事、人事は政治そのものだ。米国のトランプ政権による積極的関与が期待できない以上、我が国は自らの努力によって、国際交渉の場に臨む日本の実効性を上げねばならない。

2015年以降ゼロの日本

残念ながら日本は2015年以降、15ある国連専門機関においてどの組織にもトップを輩出できていない。各国は、国連をはじめとする国際組織に、国家を代表するエース級の人材を送り込んでくるにもかかわらず、我が国においては、この大原則が実現できていないのだ。

我が国においては、国際機関で一定の発言力を確保できるよう十数年、本国を離れて海外で働くことが官僚組織の主流から外れると見なされているため、皮肉なことだが、各省庁を担うエースほど、国内の人事体系に留め置かれる慣行が続く。

しかし、国際世論や世界標準を形成する主戦場となる国際機関において、いち早く的確な情報を入手し、影響力を行使するために、日本の人的プレゼンスを上げていくことは、本来、国益に直結する任務であるはずだ。

各国の猛者が夫々の国益をかけ、熾烈な交渉を展開する専門分野において、英語で渉り合う能力や胆力は事実上必須条件である。各国が事務局長候補に出してくる人材は、本国での大臣経験者や博士号取得者等である場合が少なくない。国内照準に硬直化した人事制度の下では、国際的なキャリアを積むことが、ハイリスク・ローリターンにしか映らず、優秀な日本人が人生を捧げる働き方として国際組織を志さないのは当然の帰結となってしまっている。

意欲引き出す人事制度に

例えば、世界貿易機関(WTO)のロベルト・アゼベド事務局長(ブラジル)が任期途中で辞任した際、日本として候補者すら立てられなかった直近の事例に鑑みても、日本が国際機関にエースを送り込む国家的意図や人事戦略に乏しかったことが露呈している。

ミドルキャリア以降、国際的な環境で働く経験が、優秀な公務員のインセンティブになっていない現行の人事制度を改め、国を背負って国益を代弁する人材ほど、国家が重用すべき最高ブレーンだとの人事相場観を構築しなければ、日本の存在感や価値を生む力は凋落する。

人は評価されるモノサシによって能力を伸ばす。今まで理念提唱だけで終わっていた国際機関における人的プレゼンスの強化は、国家公務員人事制度に連動させてこそ、実行力を持ち得る。国連がこれ以上赤く染まらないよう、この問題提起を自民党としてまとめ上げ、どなたがポスト安倍政権を担ったとしても、成し遂げるべき政治主導の国策にしたい。