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2020.09.28 (月) 印刷する

イージス・アショア論議で欠ける人の確保 太田文雄(元防衛庁情報本長)

 政府は24日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入断念を受けた代替策として、レーダーやミサイル発射装置など陸上イージス構成品一式を洋上で運用する3案を自民・公明両党の関連部会に提示した。
 
政府が示したのは①新たに護衛艦を建造し、レーダーや発射装置などを一体的に搭載 ②洋上の大型施設に設置 ③タンカーなど民間船舶に搭載―の三案で、両党関係者によれば①案を検討の軸としている。筆者が在米日本大使館の防衛駐在官(武官)であった1990年代後半、普天間の代替基地を検討した時も海上施設案があったが結局技術的には出来なかった。
 
いずれの案も洋上プラットホームであり、海上自衛隊が運用することになるであろうが、それに伴う人員等の手当を含めた総合的な解決策が求められる。

艦船は増えるが人は減る

海上自衛隊は平成22年度防衛計画の大綱で、それまで16隻であった潜水艦の定数を22隻に増やした。次の平成25年度防衛計画の大綱では、それまで48隻だった護衛艦を54隻に増やし、新たに3900トン級の哨戒艦を12隻建造することになった。
 
これに今回のイージス・アショアの代替え艦船が加わるとなると相当な増員が必要だが、人員は一向に増えず、却って少子高齢化の影響から減少の傾向にある。
 
同じ24日、笹川平和財団が主催するセミナー「海洋ガバナンス確立に資する海上防衛力の新たな役割」で、海上自衛隊幹部学校長の乾悦久海将は、海上自衛隊が保有すべき能力と現状の間にはギャップがあり、人材確保が一つのチャレンジである、とのプレゼンテーションを行った。
 
一方、8月16日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「中国に立ち向かうためにトランプ大統領は米海軍が必要だが、それは負担を強いられている(To Get Tougher on China, Trump Needs U.S. Navy, Which is Straining)」と言う記事を掲載している。

自衛官の処遇改善も重要

この記事では、7月にサンディエゴで係留中の米強襲揚陸艦ボノム・リシャールで起きた大火災や、2017年に起きた横須賀を母港とする駆逐艦ジョンSマケイン及びフィッツジェラルドの衝突事故等を取り上げ、任務過大にして人員育成、教育訓練が追いついていない事を指摘していた。海上自衛隊もこのまま任務が増え、人員増が見込めなかったら、いずれは大事故が頻発するという危惧がある。
 
人員確保のためには、乗組手当や航海手当を増額する等の施策が必要となろうが、これまでどちらかと言えば不当に処遇されてきた自衛官の処遇改善も大切である。例えば現在の在韓米大使は嘗て太平洋軍司令官(海軍大将)を務めたハリー・ハリス氏であり、中国大使を務めたジョゼフ・プリーアー元海軍大将も太平洋軍司令官であった。
 
海上自衛官の情報本部長としては筆者の後任者である大塚海夫元海将が9月、ジブチ大使に任命された。これまで防衛省(庁)出身者で大使に任命された文官は何人もいたが、自衛官出身者では初めてである。こうした処遇改善も人員不足解消の一助となり得る。