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2020.12.22 (火) 印刷する

今の中国に戦前の日本を重ねる誤り 髙池勝彦(国基研副理事長・弁護士)

 月刊誌『正論』の令和3年1月号(令和2年11月末発売)に、安倍内閣で内閣官房副長官補を務めた兼原信克氏が「日本が主導すべき西側の対中大戦略」といふ論文を書いてゐる。

論旨は、中国の台頭について我が国は「自由で開かれたインド太平洋構想」を掲げ、主導権をもつて米国のバイデン新政権と向き合ふべきであるといふことで、異論はない。

世界制覇へ独走する中国

しかし論文の中に、「今の中国は、昭和前期の日本と同様に誤った方向に進んでいる」といふ見過ごせない一節がある。これは、昭和前期の日本の国際社会における行動と、現在の中国の国際社会における行動とを同列に置くもので正しくないと私は思ふ。当時と今とでは国際情勢や国際関係がまつたく異なる。そればかりではない。当時の日本の行動には何分かの理があつたが、現在の中国の行動には一分の理もない。

私は、日本のかつての行動がすべて正しかつたといふのではない。誤りも多くあつた。今から考へるとかうすればよかつたと思ふ点も少なくない。

昭和前期の主な出来事を並べてみよう。張作霖爆破事件、満洲事変、五・一五事件、満洲国建国、国際連盟脱退、二・二六事件、盧溝橋事件、支那事件、汪兆銘政権、三国同盟、ハル・ノート、大東亜戦争と並べても、日本は、中国における排日運動、軍閥の割拠、欧米との帝国主義競争などで泥沼に引きずり込まれた面が大きかつたやうに思ふ。

当時の日本は、世界制覇はもちろん、アジア支配を目指して独走したわけではない。いづれも相手のあることで、たとへばアメリカの対応如何によつては戦争は避けられた。

兼原論文に潜む贖罪史観

中国は少なくともアジア制覇を目指してゐる。日本は国際条約やリットン調査団の勧告など、従はなかつたことはあるが、ただの「紙くず」などと言つたことはない。それまで領有権を主張したこともない領域について、ある時から領土であると主張し、軍事基地など作つたこともない。

一方中国は、上記のすべてをやつてゐる。兼原論文は中国の行動について、「共産党支配の正当性の揺らぎを克服するために」「欧米日の列強に凌辱された中国の汚名をそそ」ぐための「歴史的な復讐主義」であるといふが、それと日本が、中国や欧米と交渉しつつ戦争へと引きずり込まれた歴史とを「同じ方向」であるとみるのは間違ひである。

結論は立派な兼原論文だが、外務省出身者らしい我が国の歴史についての贖罪史観が下敷きになつてゐるやうに思はれる。瑕瑾を惜しむ。