公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.01.19 (火) 印刷する

ファイブ・アイズ入りへ覚悟はあるか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 昨年、当時の河野太郎防衛大臣は米英など5カ国の機密情報共有枠組みである「ファイブ・アイズ」に加入したいとの意思表明を行った。英国のジョンソン首相や与党・保守党のトゥゲンハート下院外交委員長、それにブレア元首相も日本も加えた「シックス・アイズ」を支持した。

昨年末に発表された米知日派の超党派報告書である第5次アーミテージ・ナイ・レポートも、日本を加えて「シックス・アイズ」にする方向で日米が真剣に努力し、同盟関係を深化させるべきであると説いている。

5カ国が共有する機密情報に日本もアクセスできれば、入ってくる情報は日本にとって質量共に計り知れないものとなるが、一方ファイブ・アイズ側としては日本から機密情報が漏れないという確信がなければ安心して情報共有ができない。すなわち日本の秘密保全機能が問われることになるのだ。

スパイ防止法すらない日本

ファイブ・アイズ加盟国には機密情報の漏洩を厳格に防ぐ法律が存在するが、日本にはそれがない。2014年12月に特定秘密保護法が施行されたが、これは同盟国から得られた機密情報を国家公務員が漏えいした場合の罰則を強化したに過ぎない。

この時ですら、朝日新聞をはじめとする日本の左派系メディアは、居酒屋で会話した内容ですら機密漏洩に問われて厳しい罰則が課せられることになると、あり得ない恐怖心を煽って反対キャンペーンを張った。

しかし、特定秘密保護法が施行されてすでに6年以上経過するが、当時朝日新聞が煽ったような事案は、類似事案をも含めて一件たりとも生起していない。慰安婦問題でも嘘をついていた吉田清治の証言を世界に拡散する等、朝日の報道には悪意に満ちた意図的な誤報道が多い。

日本の軍事情報を盗もうとする外国人スパイに対しても、これを取り締まるスパイ防止法が日本にはなく、外為法や不正競争防止法といった法律を準用しているに過ぎないのである。スパイ防止法は昭和60年に議員立法として提出されたことがあるが、審議未了で廃案となっている。

決定的な組織づくりの遅れ

主要国は、情報を入手するインテリジェンス組織と、外国が当該国のインテリジェンスを盗もうとすることを防止するカウンター・インテリジェンス(防諜)組織を有している。今回、日本のファイブ・アイズ参加に熱心な英国は、前者の機能を有するMI6と後者のMI5を保有している。ちなみにMIはMilitary Intelligence(軍事情報)の訳である。オーストラリアも前者の機密情報局(ASIS)と後者の保安情報機構(ASIO)がある。

しかるに日本にはインテリジェンス組織として曲がりなりにも内閣調査室や防衛省の情報本部等があるが、専門的なカウンター・インテリジェンス組織がなく、その機能は警察に委ねられている。

日本の警察は優秀であるが、カウンター・インテリジェンスと犯罪捜査とではメンタリティーが異なる。前者はスパイを見つけても決して捕まえず、泳がせてスパイ網の全容を明らかにしようとする。いわば黒子に徹して表には出ないのに対し、後者はすぐ捕まえて手柄をアピールする傾向がある。

米国にはインテリジェンスを司るCIA(中央情報局)とカウンター・インテリジェンスを所掌するFBI(連邦捜査局)がある。だが、同時多発テロ後、FBIが十分なカウンター・インテリジェンス機能を果たすことができなかったとしてMI5のような組織を新設すべきとする議会報告書が出ている。

さて日本についてであるが、このような機密保護の為の法律も組織もない国をファイブ・アイズは仲間に入れてくれるだろうか。ファイブ・アイズ入りは日本にとって歓迎すべきことであるのは間違いないが、入る側としても国家・国民としての覚悟がなによりも必要だ。