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2021.02.01 (月) 印刷する

尖閣諸島での日米共同訓練の実施を 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 1月28日未明に行われた日米首脳会談で、バイデン米大統領は米国の日本防衛を定めた日米安全保障条約第5条の尖閣諸島(沖縄県石垣市)への適用を改めて表明した。歓迎すべきことであるが、日本側はそれに安堵するだけで済ますべきではない。中国は海上警備を担う海警局(海警)に武器使用を認める権限などを定めた海警法を整備し、2月1日から施行する。尖閣周辺での海警の活動が強化され、緊張が増す恐れがあるときに、島を守るための具体的な対応を取ることが急務である。それは尖閣での日米共同訓練だ。

「5条適用」に安住してないか

首脳会談では日米同盟の一層の強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携などで一致した。日本政府は意見交換の中で中国への言及があったものの「詳細は控える」として内容を明らかにしなかった。外交・安全保障上、機微に触れる話題は公にできない場合もあるが、「5条適用」だけ発表すればいいのか。

仮に中国の武装漁民らが尖閣諸島を占拠した場合、米国内で40万人以上の国民が新型コロナウイルスによって命を失っているなか、わざわざ無人の島の奪回のために米兵士の血を流す必要があるのかとの反対論が起きることも予想される。

日本政府当局者は「日本が何よりもまず、自らの手で島を守り抜く意思と具体的な行動を示さないといけない。米軍への協力要請はその次であり、バイデン大統領が5条適用を言ってくれたからといって自動的に米軍が来てくれるわけではない」と語る。

バイデン氏は昨年11月も菅義偉首相との電話会談で5条適用に言及している。菅首相は1月3日付産経新聞に掲載された櫻井よしこ国家基本問題研究所理事長との対談で、これに触れ「通常は、米国の政権交代直後からそこまで持っていくのには時間がかかるんです。でも今回は最初の電話会談から(そういうやりとりができたの)ですから。バイデン陣営は日本が何を一番望んでいるのかを分析し、ああいう発言になったのではないかと思っています。日本としては非常に安心し、心強く思いました」と述べた。

尖閣諸島への安保条約5条適用はオバマ元大統領が2014年4月に米大統領としては初めて明言した。トランプ前大統領も17年2月に適用を確認している。菅首相としては初会談で5条適用を引き出した「成果」を強調したかったのであろう。

尖閣を米軍射爆場に活用を

だが、オバマ氏らの「5条適用」発言にもかかわらず、中国公船による尖閣諸島周辺海域への侵入頻度は増えている。いま、日米間で早急に実施すべきことは、尖閣諸島での日米共同訓練である。元空将の織田邦男氏が月刊「正論」3月号で、「尖閣を守るためにいまやるべきこと」と題して寄稿した中で、尖閣諸島での日米共同訓練実施の必要性を訴えている。

尖閣諸島の久場島と大正島はいまも米軍専用射爆場として有効であるとして、織田氏は日米共同訓練を行えば「中国の実効支配の動きを無効化できる」と強調した。

自衛隊と米軍は昨年8月、東シナ海などで大規模な共同訓練を相次いで実施した。尖閣諸島周辺で中国政府が設定した禁漁期が明けたのに合わせて中国側が挑発行為を行わないようけん制する狙いがあったとの見方も出ている。結局、中国の漁船団は尖閣周辺に現れなかった。中国に対しては単なる言葉だけでなく行動で示すことが重要であることを示した一例といえよう。

菅首相は櫻井氏との対談で「尖閣諸島をどう守るのかシミュレーションを行い、対応できるようにしています。(中略)領土、領海、領空を守ることは政府の最大の責務です。そこはしっかりやっていきます」と語った。いまはシミュレーションの段階ではない。日米共同訓練という目に見える形で尖閣を守る意思と決意を示すべきだろう。

織田氏が言うように「『尖閣は安保条約第5条の対象』のリップサービスだけで喜んでいる場合ではない」のである。