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2021.02.05 (金) 印刷する

強権国家には一歩も引かない意思と決意を 湯浅博(国基研企画委員兼主任研究員)

 尖閣諸島周辺の領海で、中国公船による侵犯と居座りが常態化している。あちら中国海警局の艦船は、大型化して機関砲まで積んでいる。この“第二海軍化”した中国海警局に、外国公船に対する武器使用まで認める海警法が2月1日に施行された。

中国は海警法によって主権や管轄権が外国に侵害されたときには、海警所属の公船すべてに武器使用など、あらゆる措置を取らせることを意図している。つまりは、日本が沖縄県の尖閣諸島に上陸させたり、建造物をつくったりすれば、主権を侵害したとして攻撃するとの威嚇である。

海警法に外相は何故抗議せぬ

しかし、国際法は領空侵犯した航空機は撃墜されてもやむを得ないと解釈されるが、海上では公船に対する武器使用は認めていない。公船に対する攻撃は、国土に対する戦争行為と認識されており、日本の海上保安庁法も公船に対する武器使用を除外している。

ところが中国は、海警の武器配備と使用を「世界の沿岸国で通用するやり方」と強弁し、「目的は過激で悪質な犯罪を取り締まり、公民の合法的な権益を守ること」であると、国連海洋法条約を曲解している。従って、今回の海警法施行は、法律戦、世論戦、心理戦の「三戦」を駆使した露骨な恐喝であり、有事には第二海軍として転用できる。

日本はこの三戦に対し、「強行すれば痛い目にあう」とする“反三戦”で抑止することが肝要である。しかし、軍事力をひけらかす相手に茂木敏充外相は、「国際法に反する形で適用されることがあってはならない」というだけで、海警法そのものが国連海洋法条約に反すると抗議しない。

中国の海警が今回の法律で明確に第二海軍化しているのに、日本の海上保安庁法は第25条で軍としての組織、訓練、そして機能を禁止されている。国家基本問題研究所の太田文雄企画委員によると、中国の海警は2018年に中央軍事委員会に編入され、トップは人民解放軍の少将である。軍との連携、銃器や艦船の互換性もあり、海軍艦艇を転用できる。

海保と海自で艦船の互換性急げ

ところが、国土交通省やその外局にあたる海上保安庁にそれらの互換性を推奨しても、猛烈な反対論が返ってくる。建前の議論としては、「中国を刺激して強硬策の口実にされる」「互換性を高めるには、莫大な予算が必要」との言い訳が繰り返される。力がすべての強権国家に対しては、一歩も引かない国家の意思と決意を示さなければ、付け込まれてしまうのは人間関係と同じではないか。

海上保安庁は国土交通省の外局にあたる。官僚は「権限で食っている」ようなところがあって、自分の権限が他省庁に侵害されることを極端に嫌う。権限が多ければ、それに連なる企業もすそ野がひろく、当然ながら天下り先も多くなる。

ちなみに、総務省行政評価局が調べた各省庁の許認可件数は、合計1万4908件もある。このうち主要省庁のトップは、この国土交通省の2699件、次いで厚生労働省2398件、金融庁2243件、経済産業省2206件の順で、最も少ないのが防衛省の33件であった。

国土交通省は2001年に、「トンカチ省」の異名を持つ建設省と、「我田引鉄」で名を売った運輸省など4省庁が合併した巨大官庁だ。尖閣諸島の危機が迫るいま、省あって国なしでなければよいが。