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2021.02.22 (月) 印刷する

菅首相は抑止力強化に本腰入れよ 有元隆志(産経新聞正論調査室長兼月刊「正論」発行人)

 菅義偉首相は中国などが開発を進める極超音速の新型ミサイルの開発、中国による海警法制定など日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、攻撃力を含む抑止力の強化に早急に取り組むべきだ。残念ながら、いまの菅首相には、その気概が見えてこない。野党や与党内からの抵抗があっても敢然と立ち向かうよう求めたい。

菅首相は昨年秋、病気で退陣した安倍晋三前首相の後を継いで以来、中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めてきた。全身全霊で取り組む姿勢には敬意を表するが、首相が守るべき「安全」は感染対策だけではない。

NSCは形骸化してないか

菅首相の動静を伝える産経新聞の「菅日誌」を見ていて気になることがある。それは安倍前首相が創設した国家安全保障会議(NSC)が形骸化しているのではないかということだ。

会議時間の最長は2月19日で、経済分野における国家安全保障の諸課題を協議したというが、全体で34分だった。10分未満の日も少なくない。昨年11月10日が7分、12月の11日、18日、21日もそれぞれ7分、6分、8分だった。

会議は長ければいいというものでもない。ラムズフェルド米元国防長官のように立って会議を開き、短時間で終わらせていた人もいる。それでも閣僚同士が国の防衛のあり方について忌憚なく意見を戦わせることは重要だ。

NSCは世界各地で起きている事象の把握と対応策を関係閣僚で共有し、外交・安全保障政策を迅速に決定することを目的として平成25年12月に創設されたが、最初のころは年間30回程度開かれていた閣僚会合もだんだんと少なくなった。

安倍政権の主要メンバーが変わらず会議を開かなくても対応できるという自信からかもしれないがNSCを設立した趣旨とは異なる。さらに菅首相はどちらかというとテーマを決めて、それに必要な人だけを呼んで短時間で会議を終えるタイプだ。

官房長官時代、菅氏は周辺に「数多くの面会をこなし、そのたびに判断をしなければならない。これが権力というものなんですね」ともらしたことがある。官房長官時代ならばそれでもいいだろうが、首相となると役割は違ってくる。

もちろん日々判断を迫られることに変わりはないが、首相は国の方向を決める大きな決断を最期は独りでしなければならない。それが官房長官との違いだ。

このままでは尖閣も守れず

その意味では菅首相が昨年末、敵基地攻撃能力を含む抑止力の強化について「引き続き政府において検討を行う」と先送りしたのは、菅首相らしくなかった。菅首相は一度決めたことは抵抗があってもやり抜いてきた。北朝鮮の貨客船「万景峰号」入港禁止の議員立法に尽力したのはその一例だ。

安倍前首相は退陣前の首相談話で「ミサイル阻止に向けた安全保障政策の新たな方針」について与党との協議を経て、年末までに「あるべき方策」を示すとしていた。連立与党の公明党が敵基地攻撃能力保有に否定的な姿勢を示したことに配慮し、期限すら示さなかった。果たしてそれでいいのか。

安倍氏は月刊正論3月号の山谷えり子参院議員との対談で「ミサイル防衛を進めていかねばなりませんが、同時に打撃力なしに日本国民の命、平和な暮らしを守り抜けるかといえば、残念ながらそれはできないとはっきりと申し上げたいと思います。(中略)打撃力を持つことは、抑止力を持つという意味において必須だと思いますね」と語っている。安倍氏の思いを引き継ぐ意味でも、菅首相には抑止力強化に本腰を入れてほしい。

菅首相は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市移設についても、1月27日の参院予算委員会で「従来より代替施設における恒常的な(日米による)共同使用は考えていなかった。その考えにこれからも変更はない」と述べた。辺野古移設への影響を避けるためだろうが、中国公船による尖閣諸島(同県石垣市)周辺の日本領海への侵犯行為が頻繁となり、海警法も制定されるなか、離島防衛にあたる陸上自衛隊水陸機動団の配備の可能性も否定する態度でいいのだろうか。

従来の日本政府の姿勢では尖閣をはじめ国土を守れなくなったのは明白である。菅首相の迅速な対応を求めたい。