公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2021.02.22 (月) 印刷する

小泉環境相は「脱炭素」で地に足着けよ 島田洋一(福井県立大学教授)

 小泉進次郎環境大臣と環境省が盛んに旗を振る「2050年カーボンニュートラル」論を聴くと、かねて日本外交の足をすくい国益を損なってきた「バスに乗り遅れるな」という言葉を思い出さずにおられない。

小泉氏は、現行の「エネルギー基本計画」が掲げる「2030年・再エネ比率22~24%」を大きく上回る「2030年・再エネ比率40%超」を打ち出し、その間、「炭素税」や「排出量取引」など企業や家計に負担を強いる措置も導入したい意向を示している。「成長戦略」につながる形でというが、常識的には、エネルギー・コストが高まる分、成長が阻害され、雇用が失われるだろう。

アメリカの状況を見誤るな

日本の脱炭素原理主義者たちは、米バイデン政権の誕生を国際バスの急発進のごとく喧伝している。小泉氏自身、ケリー気候変動問題担当大統領特使との「連携を深めたい」と強調している。しかし、アメリカの状況を見誤ってはならない。現在、民主党と共和党の勢力は拮抗している。

共和党は大勢として次のような立場を取る。

アメリカはテクノロジー開発によってエネルギーの効率利用を進め、二酸化炭素の排出量を減らしてきた。そうしたテクノロジーの普及こそが先進国型の国際貢献である。自国での無理な排出規制は米企業の競争力を弱め、その分、規制の緩い中国の企業が有利になり、結果的に地球環境をかえって損なう―。

実際、国際エネルギー機関によれば、米国は過去10年間に二酸化炭素排出量を世界で最も減らしている。

一方、民主党は2019年、最左派グループがまとめた「グリーン・ニューディール」決議案を提出し、ハリス上院議員(当時)はじめ同党の多くが賛意を表した。10年以内の火力発電所廃止、飛行機から鉄道への転換、国庫補助による全家庭の完全電化などきわめて急進的な内容である。

日本の一人負けにならぬか

ところが上院共和党が、個々の議員の賛否を明らかにしようと採決に持ち込んだところ、共和党は全員が反対。民主党は、自ら出した決議案でありながら「審議不十分」を理由に採決に反対し、47人中43人が棄権という結果になった。

要するに民主党議員が望んだのは、美しい響きの「グリーン・ニューディール」を支持したというイメージだけで、経済悪化の責任を取らされたくなかったのである。

現在、上院のエネルギー・天然資源委員長には民主党で最も保守的なマンチン議員が就き、急進的な脱炭素政策に反対する姿勢を明確にしている。来年の中間選挙、さらには2024年の大統領選挙で共和党が勝利を収めれば、政策の基調は再びトランプ時代に戻るだろう。

自民党から共産党まで無批判に「脱炭素」を掲げる日本の現状は危うい。かつてゴア副大統領が主導した京都議定書について、クリントン政権は議会に承認を求めもしなかった。否決が明らかだったためである。続くブッシュ子政権は署名自体を無効化した。米リベラル派の掛け声に引きずられると、いずれ梯子を外され、再び日本の一人負けとなりかねない。